大事な試合だからこそ大切にしたい当たり前のこと

大事な試合や大きな舞台では、「いつもとは違う何かをしなくては」と感じる人が多いでしょう。
現に勝負のプレッシャーが強くなると、「何か特別なことをして自分を鼓舞しよう」「試合を成功に導こう」と無意識に考えてしまいます。
しかし、実際にはこの「いつもと違うこと」が裏目に出ることも少なくありません。

本コラムでは、なぜそのような心理が働くのか、そしてそれを克服して「いつも通り」を貫くことの重要性について、科学的根拠をもとに解説します。
また、大事な試合でも冷静でいるための具体的な方法についても紹介していますので是非ご活用下さい。

目次

大事な試合になると「特別なこと」をしたくなる心理

大事な試合やイベントが迫ると、多くの選手が「特別な準備」をしたくなります。
これは「大事な場面で失敗したくない」、「この試合に絶対に勝ちたい」、「最高のパフォーマンスを発揮したい」などといった気持ちからくるものです。

人はストレス下では、普段とは異なる行動を取ろうとし、安心感を得ようとします。
心理学ではこれを「確証バイアス」と呼びます。
新しいことを試すことで、結果が良くなるという根拠のない確信に頼ってしまうのです。

いつもと違うことをしたくなる行動経済学の観点

行動経済学では、人は「損失回避」の傾向が強いとされています。
これは、「何かを失う恐怖」が「何かを得る喜び」よりも強く感じてしまう心理です。

重要な試合では、勝ちたい気持ちが強いがあまり、負ける恐怖が頭をよぎり、これまで積み重ねてきたことでは不安を拭えないと感じてしまいます。
そのため、選手はいつもと違うことをすることで、その不安を解消しようとするのです。

しかし、新しいアプローチは逆にプレッシャーを増し、集中力を欠いてしまうリスクが高まります。

準備不足が不安を生む理由とそのメカニズム

科学的な視点から見ても、準備不足は不安の大きな要因となります。
スタンフォード大学の研究によれば、緊張状態にあるとき、人は過去の経験や記憶に頼る傾向があります。

しかし、普段から質の高い準備ができていないと、その「頼れる経験」が少なくなり、不安を感じやすくなります。
そのため、特別なことを試すことで、その不安を打ち消そうとするのです。

科学的根拠から見る「いつも通り」の重要性

スポーツ心理学では、安定したパフォーマンスを発揮するためには「いつも通り」を貫くことが最も効果的とされています。

オリンピック選手などトップアスリートの多くは、これまでやってきたことを徹底して守ることで、緊張やプレッシャーを軽減しています。
普段と同じことを行うことで、身体と心がリラックスし、ベストな状態でパフォーマンスを発揮できるのです。

例としてのトップアスリートの習慣

例えば、テニスのロジャー・フェデラー選手は、試合当日のルーティンを非常に大切にしています。
どれだけ大事な試合でも、朝食やウォームアップの時間、試合前のストレッチなどを普段と同じように行います。
これは、「特別な日」であることを意識しすぎず、いつも通りの精神状態を保つためです。

質の高い準備の積み重ねがもたらす効果

質の高い準備を日常的に行っている選手は、大事な場面でもいつも通りの実力を発揮しやすいと言われています。
これは「長期的な自己効力感」に基づくもので、日々のトレーニングや練習の積み重ねが自信に繋がるためです。心理学的にも、日々の努力が精神的な安定をもたらし、緊張の中でも平常心を保つ助けとなります。

大事な試合でも冷静さ保つための具体的な方法

これから紹介する方法は、試合のプレッシャーを軽減し、日常のパフォーマンスを維持するための科学的に裏付けられたアプローチです。
定期的な実践によって、試合当日の精神状態を安定させ、最大限のパフォーマンスを発揮できるようになります。

自分自身にとって大事な試合なほど、いつもと違うことをしてしまう可能性があります。
その対策としてこれらの方法を取り入れてみたください。

ルーティンの確立

〈方法〉毎日の生活やトレーニングで、決まったルーティンを守り、試合前も同じルーティンを行う。
〈効果〉試合前のルーティンを日常のトレーニングと同じように行うことで、心理的安定感が増し、集中力が高まります。いつも通りの行動を取ることで、過度な緊張やプレッシャーを軽減できます。
〈科学的根拠〉スポーツ心理学では、ルーティンがパフォーマンスを一定に保ち、特にプレッシャーのかかる状況で自己効力感(自分は成功できるという信念)を高める効果があるとされています【3】。また、ルーティンは脳に「安全である」ということを認識させ、不安を抑える助けとなります【2】。

マインドフルネスの導入

〈方法〉瞑想や深呼吸を取り入れ、心の安定を保つ。
〈効果〉瞑想や深呼吸といったマインドフルネスは、心を「今この瞬間」に集中させ、過去の失敗や未来の不安を忘れさせます。これにより、冷静な判断力と落ち着きを保つことができます。
〈科学的根拠〉研究によれば、マインドフルネスはストレスの軽減、感情のコントロール、さらには集中力の向上にも有効的です【1】【3】。さらに、試合前の不安や緊張を抑える効果が確認されており、選手のパフォーマンスを向上させることが報告されています【5】。

ポジティブなセルフトーク

〈方法〉試合前に「いつも通りやれば大丈夫」と自分に言い聞かせる。
〈効果〉自分自身に対して「いつも通りやれば大丈夫」などのポジティブなメッセージを送ることで、自己効力感を高め、不安を軽減します。肯定的な自己対話は、集中力を高めるだけでなく、逆境に強くなるメンタルを作るのに役立ちます。
〈科学的根拠〉研究では、ポジティブなセルフトークがストレス状況での心理的耐性を強化し、パフォーマンスを向上させることが示されています【2】【6】。また、セルフトークは脳内の神経回路にポジティブな影響を与え、心の準備を整えることが確認されています【4】。

まとめ:これまでの準備が最高のパフォーマンスを生む

つまるところ、最も重要なのは「これまでの準備がすべて」ということです。
特別な日だからといって特別なことをする必要はなく、普段のトレーニングや生活習慣などといったこれまで積み重ねてきたことがパフォーマンスに直接影響します。

だからこそ、特別な日がいつきてもいいように、自信を持ってこれまで積み重ねてきたことを信じられるような日々を過ごすことが大切になるのです。

未来は今この瞬間の積み重ねです。
未来の自分が今の自分を誇れるような日々を過ごしていきましょう。

※参考資料
【1】ncbi.nlm.nih.gov – Effects of Mindfulness on Psychological Health
【2】ncbi.nlm.nih.gov – Trait Mindfulness, Self-Compassion, and Self-Talk
【3】apa.org – Mindfulness meditation: A research-proven way to reduce stress
【4】researchgate.net – Mindfulness for Teachers: A Pilot Study
【5】wikipedia.org – Mindfulness
【6】theconversation.com – Mindfulness, meditation, and self-compassion

スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、結果プロになれずに現役引退。 その後、人命に関われる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロサーファー、プロゴルファー、実業団選手を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にメンタルのサポートをしている。 すべての人が自分自身の可能性を信じて生きていける社会にすることが人生のテーマ。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

目次