練習の質を高めるためにも目的が重要になる理由

スポーツにおいて「目的を持って練習すること」は、ただ単に身体を鍛えるだけではなく、成長や成果を引き出すための重要な鍵となります。
しかし、目的が不明確な状態で練習に取り組むと、練習そのものが「目的化」してしまい、本来の成果を得るための練習が逆にゴールになってしまいます。

スポーツメンタルコーチとして多くのアスリートと関わる中で感じたことがあります。
それが、なぜその練習をしているのかが不明確な状態でいる選手が多いということです。

アスリートにとって練習は、競技で結果を残したり、成長し続けるためにも欠かせないものです。
その練習がアスリートにとって質の低いものだった場合、その先にはどんな未来が待っているでしょうか?

本コラムでは、脳科学、心理学、スポーツ科学の観点から、なぜ「目的意識を持って練習に取り組むこと」が重要であるのか。
そして、目的を持って練習をすることで、練習の質を高められるのかについて掘り下げていきます。

目次

目的を持って練習に取り組むことの重要性

手段と目的の違い

練習とは、試合で結果を出したり、パフォーマンス向上のためなどの「目的」を達成するための「手段」です。
しかし、練習が単なるルーティンとなると、手段が目的にすり替わってしまい、成長が停滞する原因となります。

練習が目的化する問題とは?

目的が定まっていないと、「今日は何時間練習したか」「何セットこなしたか」といった量的な達成に満足してしまい、本来の目的である技術向上やメンタル強化への意識が薄れてしまいます。
これが「手段が目的化する」状態です。

そのような練習を繰り返していると、練習に対しての振り返りも質が低くなり、成長のサイクルを上手く回すことができません。
つまり目的を持って練習に取り組み、振り返りの質を高めることが、良い成長のサイクルを回すことに繋がっていくのです。

脳科学から見る目的意識の影響

脳の報酬系システム

脳科学の観点から見ると、私たちの脳は「目的」を明確に持つことでドーパミンが分泌され、やる気や集中力が高まります。
ドーパミンは、目標達成に向けてモチベーションを維持する役割を持ちます。
目標がはっきりしていると、その達成に向けた行動が報酬として脳にフィードバックされ、さらなる意欲を引き出すのです。

ドーパミンの効果とモチベーションの関係

ドーパミンは「達成感」や「報酬」を感じたときに多く分泌されます。
そのため、練習の目的を明確にすることで、達成感を得るチャンスが増え、より積極的に取り組む姿勢が生まれます。
また、この目的を明確にすることで習慣化しやすくなるというメリットもあります。
これは、日々の練習が単なる作業ではなく、成長を感じる機会となるためです。
ドーパミンが分泌されるかどうかが習慣化を定着させるためのコツにもなります。

心理学に基づく効果

カラーバス効果とは

心理学の「カラーバス効果」によると、人は意識を向けたものに対して情報を集めやすくなる傾向があります。
目的が明確であれば、それに関連する情報や学びを脳が無意識にキャッチし、成長の糧にするのです。
例えば、「試合で得点力を上げる」という目的があれば、日常の中で得点に繋がるヒントや技術に敏感になります。

目的の設定と心理的成長

目的を明確にすることで「達成感」を感じる経験が増え、自己効力感(自分はできるという感覚)が高まります。
心理学の研究によれば、目的を果たすための目標を達成し続けることで、ストレス耐性や困難への挑戦意欲も高まります。
これにより、アスリートとしての成長が加速します。

実践的なアプローチ

目的を設定する具体的方法

まず目的を設定し、その目的を果たすための目標を設定します。

例えば、「左足のシュート精度を向上させたい」という目的を設定した場合、その目的を果たすための目標が「左足のシュート練習をする」になります。
これは簡易的に表したものなので、実際にはもっと細かく設定した方が、練習の質も向上しますし、振り返りの内容も深いものになっていくでしょう。

ちなみに、もし「左足のシュート練習をする」が目的になってしまうと、なんのためにやっているの?ということになり、手段が目的化していることになります。

目的に対してどんな目標を設定するかは下記のSMARTの法則を活用するといいでしょう。

SMARTの法則:目標を具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、現実的(Realistic)、期限を決めて(Time-bound)設定する。

効果的なフィードバックの重要性

フィードバックを通じて、自分の課題や成長ポイントを客観的に把握することができます。
特に、コーチや仲間からの建設的なフィードバックは、目的を再確認し、練習の方向性を修正するための指針となります。
だからこそ、建設的なフィードバックをもらえるような環境に身を置くことは大切です。

まとめ

目的を持って練習に取り組むことは、アスリートにとって技術や体力だけでなく、心の成長にもつながります。
練習そのものが目的化してしまうことなく、「なぜこの練習をしているのか」を常に意識することで、日々の練習が単なる作業から成長のステップへと変わります。

目的があるから、その目的を果たすための手段として練習がある。
皆さんも意識的に、「この練習の目的は何か?」と自身に問いかけることを意識して頂けたらと思います。

スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、結果プロになれずに現役引退。 その後、人命に関われる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロサーファー、プロゴルファー、実業団選手を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にメンタルのサポートをしている。 すべての人が自分自身の可能性を信じて生きていける社会にすることが人生のテーマ。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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