「自信はあるのに結果が出ない」自信と過信のスポーツメンタル

何か新しいことを始めたとき、「これならいける!」と感じた直後に、「やっぱり全然いけないや…」と感じた経験はありませんか?

実際に私がサポートしてきたアスリートの中にも、自信が過信となり、試合で思うようなパフォーマンスを発揮できなかったという事例があります。

では、アスリート自身は自信があると思っているのに、どうしてその自信が過信となってしまうのでしょうか?

これらの現象を裏付ける心理学の理論が、ダニング・クルーガー効果です。

この現象を理解することで、自分のスキルや知識を正しく評価するきっかけになると思います。

自信が過信とならないように、このコラムが何かしらのきっかけを生み出すことができたら嬉しいです。

目次

ダニング・クルーガー効果とは?

ダニング・クルーガー効果は、1999年に心理学者のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによって研究されました。

この研究結果を簡単に言えば、「スキルが低い人ほど、自分を過大評価しやすい」という傾向です。

逆に、スキルや知識が豊富な人ほど「まだまだ自分には学ぶべきことがある」と考え、自分を過小評価しがちなのも特徴です。

実際のところ、日々競技と向き合っていると、このような問題に直面するアスリートも少なくありません。

だからこそ、客観的に自分の状況を把握するために、このダニング・クルーガー効果を理解することが必要になっていきます。

【スポーツメンタルメモ:ダニング・クルーガー効果の研究】
1. 参加者の募集
研究者は、大学生を中心とした参加者を集めました。
2. スキルテストの実施
文章理解、論理的推論、ユーモアのセンスを測るテストを行いました。内容は、知識や判断力を問う一般的な形式です。
3. 自己評価を求める
テスト終了後、参加者に「自分の成績がどの程度良いと思うか」を評価してもらいました。また、自分が全体の中でどの順位にいると考えるかも答えてもらいました。
4. 実際のスコアと自己評価の比較
参加者の実際のスコアと自己評価を比較したところ、次のような傾向が見られました。
• 低スコアの参加者: 自分の成績を過大評価し、「自分は平均以上」と考える傾向が強い。
• 高スコアの参加者: 自分の能力を過小評価し、他者も自分と同じくらいできると考える傾向がある。
5. 研究の結論
研究者は、スキルが低い人は「自分の欠点を認識する能力も欠如している」という仮説を立て、これをダニング=クルーガー効果と名付けました。高スキルの人は逆に「自分の能力を標準的」と誤解してしまうため、謙虚に見えることが確認されました。この研究は、「自分を正しく評価する力もまた、スキルの一部である」ことを示しています。

能力が低い人の過大評価と能力が高い人の過小評価

ある競技を始めたばかりだったり、新しいスキルを獲得しようとしたときに、「これなら全然いける!」と感じてしまったことはありませんか?

このように、何かを始めたばかりのときは自分自身の能力を正確に評価できずに、自分を高く評価してしまう傾向があります。

逆に競技を長く続けてきたり、あるスキルが熟練したものになってくると、自分にとってそれが当たり前になり、「他の人も自分と同じくらいの知識や能力がある」と自分自身を過小評価してしまうことがあるのです。

「自信」と「過信」の境界線

ダニング・クルーガー効果が示唆するのは、自分の能力を正確に評価することは、簡単ではないということです。

では、なぜこうした過信や過小評価が起きるのでしょう?

アマチュアアスリートとトップアスリートの自己評価

競技者としてのスキルや経験が浅い人は、その競技の複雑さや奥深さをまだまだ理解できません。

そのため、「これくらいで十分」と思い込んでしまうことがあります。

例えるなら、スポーツ初心者が最初の1週間で「自分は素質がある!」と思った後、次の1ヶ月で「いや、全然だった…」と実感する流れです。

一方、経験を積んできたトップアスリートは、自分のスキルが標準レベルだと思い込んでしまうことがあります。

「これくらいできて当たり前」と考えてしまうため、自分自身を過小評価してしまうのです。

ダニング・クルーガー効果は誰にでも起こる


「いやいや、自分はそんな風に思い込まない」と思ったアスリートもいるかもしれません。

しかし、実はこの効果は誰にでも起こり得る現象です。

例えば、次のような場面で現れることがあります。

新しい競技やスキルを習得するとき


例えば、初めてテニスを始めたとしましょう。

最初は「なんだ、意外と簡単じゃん」と思うかもしれません。

でも、少し上達して試合に出ると、「コート全体をカバーするのは思った以上に難しい!」と感じる瞬間がやってきます。

この落差こそ、ダニング=クルーガー効果の影響です。

大事な試合のとき

自分自身にとって大事な試合のとき、「自信がある」と言葉にしてしまうアスリートが多くいます。

しかし、その自信か過信となってしまい、準備の質が低下したり、本来目を向けるべきことが疎かになると、パフォーマンスに悪影響を与えることがあります。

だからこそ、大事な試合のときこそ、自信に意識を向けるより、やるべきことを淡々とやることがアスリートにとって必要です。

ダニング・クルーガー効果を克服する3つのポイント

学び続ける姿勢を持つ


自分のスキルや知識を過信しないためには、常に「新しいことを学び続ける」という姿勢を忘れないことが大切です。

そのためにも「成長し続ける」という意識を持って競技と向き合うことが必要になります。

メタ認知能力を高める

自分の思考や行動を客観的に振り返る力(メタ認知)は、正確な自己評価を助けてくれます。

「今の自分は本当に正しい判断をしているか?」と問いかける習慣を身につけることがおすすめです。

そのためにも、振り返りの時間を1日の中で確保することが望ましいです。

スポーツメンタルコーチングを受ける

スポーツメンタルの専門家である、スポーツメンタルコーチに相談することで、自分自身の能力に対する認識のずれに気づくことができます。

自分が思い込んでいることが必ずしも正しいとは限りません。

だからこそ、専門家の視点を取り入れ、認識のずれを修正していくことが大切です。

おわりに

ダニング・クルーガー効果は、ときにアスリートを悩ませることのある存在ですが、その仕組みを理解することで成長へのヒントを得ることにもなります。

「自信を持つ」ことは大切ですが、その自信が過信にならないよう、自分を見つめ直すことも同じくらい重要です。

また実際には、高い能力を持っているのにも関わらず、自分自身を過小評価してしまうことはもったいないことです。

そのためにも、自分自身の能力を自分一人で判断するのではなく、スポーツメンタルコーチのような専門家に相談することがおすすめです。

そうすることで、自分自身について客観的な視点で見ることができ、より質の高い日々を送ることに繋がります。

その日々が自身の成長を生み出すきっかけとなるのです。

スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、結果プロになれずに現役引退。 その後、人命に関われる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロサーファー、プロゴルファー、実業団選手を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にメンタルのサポートをしている。 すべての人が自分自身の可能性を信じて生きていける社会にすることが人生のテーマ。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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