試合前の不安と緊張を整える|腸脳相関とスポーツメンタル

腸脳相関とメンタルフードの話

本番が近づくと、いつも通りのはずなのに眠りが浅い。
集中が続かない。些細なことで焦る。
そしてなぜか、お腹の調子が一番先に崩れる。

この感覚に心当たりがある選手は多いと思います。
だから私は、メンタルを語るときに、腸を含めたコンディションの土台も一緒に見たいと思っています。

こういうとき、私たちはメンタルを気持ちの問題として扱いがちです。切り替えよう、強くなろう、考え方を整えよう。もちろんそれも大切です。

ただ、競技生活を見ていると、メンタルの乱れは思考より先に身体から始まっていることがよくあります。睡眠が落ちる。回復が落ちる。胃腸が乱れる。そこから集中と感情が揺れる。すると、呼吸法やルーティンといった技術も効きにくくなります。

だからこそ、メンタルを整える話は、考え方だけで終わらせないほうが強い。

その視点のひとつが、腸脳相関です。腸と脳は別々の臓器ではなく、双方向につながり合っている。腸の状態は脳の働きに影響し、脳のストレス状態は腸にも反映されます。

このコラムでは、腸内環境を整えることがなぜパフォーマンスの安定につながりうるのかを、アスリート向けに整理します。

腸脳相関とは何か

腸脳相関は、腸と脳が影響を与え合う関係のことです。腸の状態が脳に影響し、脳の状態も腸に影響する。片方向ではなく行ったり来たりしている。

腸から脳への影響は、主に次の4つのルートで語られます。

1 神経のルート(迷走神経など)

腸の状態は神経を通じて脳へ情報として入っていきます。緊張や落ち着きのスイッチは、思考だけでなく身体からも入ります。

2 免疫と炎症のルート

腸の環境が乱れると炎症が高まりやすい方向に傾くことがあります。炎症は、疲労感、回復、気分の安定とも結びつきやすい。競技生活の土台として無視できません。

3 内分泌のルート(ストレス反応)

ストレスが強いときに、お腹の調子が崩れるのは自然です。脳がストレス反応を動かすことで、腸の運動や分泌が乱れやすくなるからです。

4 腸内細菌の代謝物のルート

腸内細菌は、食べたものを材料にして代謝物をつくります。代表が短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸など)です。これらは腸のバリア機能や炎症に関わり、結果として脳の働きにも影響しうると整理されています。

ここで大切なのは、腸を整えればメンタルが強くなる、という単純な話ではないことです。
もっと正確に言うならこうです。

腸の状態が乱れると、睡眠が崩れやすい。回復が落ちやすい。炎症が高まりやすい。ストレス反応が増幅しやすい。
その積み重ねが、集中と感情の安定という土台を揺らします。

つまり腸は、メンタルを良くする魔法ではなく、メンタルを崩しにくくする土台になり得るということです。

脳のどこが関わるのか

腸脳相関を語ると、脳のどこが変わるのかという疑問が出ます。ここは決めつけないということが大切です。

研究の議論としては、判断・注意・セルフコントロールに関わる前頭前野、学習・記憶・感情調整に関わる海馬、不安反応に関わる領域などが、炎症やストレス反応と結びつく形で取り上げられます。
ただし、腸を整えると必ずこの部位がこうなる、と単純に言えるわけではありません。個人差も大きい。

アスリートにとって大事な理解はこうです。

競技中に判断を安定させるには、整える力が必要。
整える力を支えるのは、睡眠と回復。
睡眠と回復を揺らしやすい要因のひとつが、腸の乱れ。

だから腸の安定は、競技中の集中と感情の再現性につながり得ます。

アスリートにとっての腸内環境の価値

腸の話を健康論で終わらせないために、パフォーマンスに直結する形で整理します。価値は主に5つです。

1 集中が上がるより安定する

集中力は上げるより、落ちにくくするほうが重要です。腸の不快感、眠りの浅さ、炎症、疲労は集中の持続を削ります。腸が整うほど、集中を邪魔するノイズが減ります。

2 感情の波が小さくなる

不安や焦りは思考だけで起きるわけではありません。身体が過緊張のときに増幅しやすい。
腸が荒れて睡眠が崩れる。回復が落ちる。すると感情を調整する余裕がなくなる。
腸を整えることは、感情の波を小さくする方向に働き得ます。

3 睡眠と回復が整いやすい

睡眠が浅いと、メンタルは簡単に崩れます。腸の状態は睡眠や回復にも関わりうるため、腸を整えることは回復への投資になります。回復が整うと判断の精度が上がるということです。

4 シーズン中の胃腸トラブルを減らす

シーズン中は移動、環境変化、プレッシャーが重なります。すると胃腸が乱れやすい。
試合が近づくと腹が痛い、下す、食べられない。これは弱さではなくストレス反応として自然です。
ただ、普段の腸内環境が荒れていると、この反応が強く出やすい。腸を守れるかどうかは、コンディションの安定につながっていきます。

5 追い込むほど腸をケアする理由が増える

高強度トレーニングは身体にストレスをかけます。腸も例外ではありません。
急性の運動が腸管透過性を一時的に高める可能性は、レビューでも整理されています。
追い込む時期が続くほど、腸のケアはコンディションを維持するためにも大切です。

メンタルフードの定義

メンタルフードという言葉を、気持ちを上げる食べ物として扱うと誤解が生まれます。

私が言うメンタルフードは、メンタルが乱れにくい土台をつくる食事です。
腸を整え、睡眠の質を高め、炎症をしにくくするための選択になります。

腸を整える食事の考え方

食事については、私は栄養指導の専門家ではありません。
ここでは、腸を乱しにくい方向性の整理に留めます。

胃腸の不調が続く場合や、体重管理を含めた調整が必要な場合は、医師や管理栄養士などの専門家に相談してください。
希望があれば、私の方で信頼できる専門家をご紹介することもできます。

ここからは、競技生活の中で押さえておくとブレにくいポイントを4つだけまとめます。

1 食物繊維を少し増やす

野菜、きのこ、海藻、豆などを、まずは毎食どれか一つ足す。
しかし、増やしすぎるとお腹が張ることもあります。

2 発酵食品は合うものを少量で

味噌、納豆、ヨーグルトなど。合う合わないがあるので、まずは少量から固定してみる。
発酵食品の摂取量を増やした介入研究では、腸内細菌の多様性増加や炎症マーカーの変化が報告されています。

3 試合前に急に変えない

良さそうだからと直前に変えるほど、腸は乱れやすい。変えるなら試合の1〜2週間前から少しずつ。

4 夜遅い食事を避けて睡眠の質を高める

腸を整える話は、結局睡眠と回復に戻ってくる。シーズン中ほど、夜は軽めを基本にする。

土台を整える、という順番

メンタルは強いか弱いかではなく、整っているかどうかだと思っています。

腸内環境を整えることは、気持ちを無理に上げるためではなく、集中や感情が乱れにくい土台をつくること。

私は、方法論を増やす前に、まず土台を整える。その順番を大切にしています。

まとめ

競技中に崩れない選手は、特別な才能だけで成り立っているわけではありません。
本番で再現できる状態を持っている。

腸を整えることは、派手な話ではないかもしれません。
でも、こういう地味な積み重ねが、競技中の安定を支えます。

腸が整うと、眠りが整い、回復が整い、集中と感情が整いやすくなる。
その積み重ねが、競技中の一瞬の判断や、プレッシャー下での安定につながっていきます。

※参考文献
  1. Cryan, J. F., et al. (2019). The Microbiota-Gut-Brain Axis. Physiological Reviews, 99(4), 1877–2013. https://doi.org/10.1152/physrev.00018.2018
  2. Wastyk, H. C., et al. (2021). Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status. Cell, 184(16), 4137–4153.e14. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.06.019
  3. Keirns, B. H., et al. (2020). Exercise and intestinal permeability: another form of exercise-induced hormesis? American Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology, 319(4), G512–G518. https://doi.org/10.1152/ajpgi.00232.2020
  4. Park, J. C., Chang, L., Kwon, H.-K., & Im, S.-H. (2025). Beyond the gut: decoding the gut–immune–brain axis in health and disease. Cellular & Molecular Immunology, 22(11), 1287–1312. https://doi.org/10.1038/s41423-025-01333-3
  5. Majumdar, A., et al. (2023). Short-Chain Fatty Acids in the Microbiota-Gut-Brain Axis: Role in Neurodegenerative Disorders and Viral Infections. ACS Chemical Neuroscience, 14(6), 1045–1062. https://doi.org/10.1021/acschemneuro.2c00803
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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。福岡を中心に九州全域から首都圏で活動中。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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