アスリートにとって開き直ることがパフォーマンス向上につながる理由

アスリートと話していると、こんな言葉を聞くことがあります。

「練習では全然できるのに、試合になると体が固まって。」
「頑張らなきゃって思えば思うほど、逆にダメで。」
「もうどうにでもなれって開き直ったときだけ、なぜか体が動いて。」

その「開き直ったときだけ動けた」という経験、あなたにも一度はあるのではないでしょうか。

そしてきっとその後、こう思ったはずです。「あれは偶然だった」「あのときはたまたま吹っ切れただけだ」と。

本当にそうでしょうか。

国立スポーツ科学センター(JISS)が自国開催の国際大会で実力を発揮した日本人トップアスリートを対象に行った研究では、実力発揮に至る心理的プロセスの重要なステップのひとつとして、「開き直り」が明示的に確認されています。

切迫感を経て、開き直り、そして自分のパフォーマンスへの集中へと向かう。
偶然でも気合いでもなく、開き直りには再現性のある心理的な流れがある、ということです。

「絶対に決めなければ」が、体の邪魔をする

大事な試合になると、頭の中で声が聞こえてきます。

「ここで外したら終わりだ。」「監督が見ている。」「次はないかもしれない。」

その声が大きくなるほど、体が動かなくなっていく。
これは弱いからではなく、脳の構造として、起きやすいことなのです。

練習でうまくいっているとき、体はほとんど無意識で動いています。
年積み上げてきた動作が、考えなくても出てくる状態です。

サッカーで言えば、ボールを蹴るときにどこに力を入れるかなんて考えていない。
野球で言えば、フォームを意識しながらバットを振っていない。
そういう動作は、繰り返しの練習によって脳に深く刻み込まれていて、無意識に動いています。

ところが「失敗できない」という意識が強くなると、脳は急に「自分で動きを管理しよう」としはじめます。
膝の角度は合っているか、腕の振りはどうか、タイミングはずれていないか。
普段は意識したことすらないことを、一気に確認しようとする。

その瞬間に、なめらかに動いていた体に、意識が割り込んでくる。

コーチングの現場でよく見る光景があります。
普段の練習では何十本と決めているシュートを、「これを決めたらレギュラーが決まる」という状況で外してしまう選手。
セッションの中で振り返ってもらうと、体の問題ではなく頭の中の状態が原因だったと気づくことが多い。

シカゴ大学の研究では、熟練した選手ほど「考えすぎ」によってパフォーマンスが落ちやすいことが示されています。
うまいからこそ、意識が入ると崩れる。
真剣に頑張ろうとすることが、本来の力を邪魔してしまうという逆説が、あなたの体の中で起きているわけです。

開き直った瞬間に、何かが外れる

ではなぜ、開き直ると動けるのか。

開き直りというのは、「失敗してはいけない」というフレームが外れる瞬間です。
もうどうにでもなれ、と思った瞬間、脳が過剰に介入するのをやめる。
体が、練習で積み上げてきたものに委ねられる。

開き直る前と後で、何が変わるのか。
構えが変わり、呼吸が変わり、視野が広くなる。
「次のプレーだけ」ではなく、フィールド全体が見えてくる。
体が軽くなったように感じる選手もいます。
同じ場所に立っているのに、さっきまでとは別人のように動ける。

あれは感覚の問題ではありません。
頭が体の邪魔をやめた結果、これまで積み重ねてきた練習がそのまま出てきているだけです。

コーチングの現場で、一流と呼ばれる選手を見ていて感じるのは、「結果と自分を切り離せている」ということです。
うまくいかなくても、それは俺という人間の価値じゃない、という土台がある。
だから、思い切ってリスクを取れる。ミスを恐れずに体を動かせる。

開き直りの本質は、あきらめることでも、無責任になることでもありません。
「結果がどうあれ、やれることを全部やる」という覚悟を決めること。
その覚悟が、頭の余計な介入をなくして、体を本来の動きに戻してくれます。

怖れの正体を、見てみる

コーチングの中でよく使うワークがあります。
「最悪のシナリオを、具体的に言葉にしてみる」というものです。

これは古代ローマのストア哲学に由来する考え方で、「最悪の事態をあらかじめ想像することで、恐れを手放せる」というものです。
心理学の世界でも、漠然とした恐怖に言葉をつけると脳の不安反応が和らぐことが研究で示されていて、「怖い」という感覚のままでいるより、「何が怖いのか」を具体的にした瞬間に、感情の強度が落ちていきます。

「もしこの試合で最悪の結果になったとして、自分の人生はどうなるか」を、紙に書き出してもらう。
最初は「そんなこと考えたくない」という選手も多い。
でも実際にやってみると、ほとんどの選手が途中でふっと表情が変わります。

「……別に、死ぬわけじゃないですね。」

漠然と「怖い」と感じている状態が一番苦しい。
怖れに名前をつけて、正面から見てみると、意外と小さいことがわかる。
その瞬間に初めて、本当の意味で開き直ることができます。

「もうどうにでもなれ」は、偶然じゃない

開き直りは、偶然に訪れるものではありません。
意識的に近づいていけるものです。

結果と自分の価値を切り離す習慣、怖れの正体に向き合うこと、言葉の使い方を変えていくこと。
どれも、繰り返すうちに少しずつ体に馴染んでいきます。

たとえば試合前に「うまくやらなければ」と思っていたところを、「やれることを全部出そう」に変えるだけでも、体の反応は少し変わっていきます。
言葉は気持ちの表現ではなく、脳へのスイッチになります。
使う言葉が変わると、脳が状況をどう評価するかが変わる。

怖れの言語化も、一度やってみると感覚がつかめます。
試合の前日、「最悪どうなるか」を紙に書いてみる。
書き終えたとき、少し肩の力が抜けたような感覚があれば、それが開き直りの入口です。

練習ではできているのに試合で出せない、と感じているなら、技術の問題である前に、頭が邪魔をしている可能性があります。
あなたがこれまで積み上げてきたものは、ちゃんと体の中に刻まれています。
それを解放するのを邪魔しているのは、ほとんどの場合、自分自身の「頭の声」です。

開き直りを「偶然」で終わらせてしまうのは、もったいないと私は思っています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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