自信が欲しくなる瞬間は、誰にでもあります。
自信がないとき、人は自分を責めがちです。
でも私は、それを弱さだとは思っていません。
むしろ自信が揺れるのは自然です。真剣に競技に向き合い、学び、成長しようとするほど、自分の課題が見えるからです。
問題は、自信がないときに積み重ねてきたことをやめてしまうこと。
そしてもう一つの落とし穴として、過信があります。
過信は一見、自信に見えます。言葉も強く、態度も堂々としている。
でも、過信は崩れ方が早い。なぜなら土台が不安定だからです。
この「自信のなさ」と「過信の危険性」を理解するために役立つのが、心理学で知られる「成長の途中で自信が下がり始める現象」です(一般にダニング=クルーガー効果として紹介されることもあります)。
図1:成長の途中で「自信が下がる」曲線

この曲線が示しているのは、ざっくり言うとこういうことです。
最初は知識や経験が少ないのに、なぜか自信が高い。
学びが進むと、自分の未熟さが見えて自信が下がり始める。
そこを越えて積み重ねていけると、能力と自信が一致していく。
大事なのは、自信が下がり始める瞬間は、能力が下がったからではなく、見えている世界が広がったから起きるということです。
つまり、自信が下がることは、成長の途中で起きやすい「正常な反応」です。
そして、この曲線はもう一つのことを教えてくれます。
それが、自信と過信の違いです。
自信と過信の違いは、根拠と再現性に出る
自信も過信も、表面だけ見れば似ています。
でも本質は真逆です。
過信は、一見すると自信に見えます。
けれど中身は、「できる気がする」という感覚が先に立ち、できる理由が自分自身も理解できていない状態です。
経験が少ないうちは、できていないこと自体が見えにくい。
だからこそ自信が高く感じられることがあります。図の左側で起きやすい現象です。
過信の特徴は、とてもシンプルです。
うまくいったときは、それが偶然だとしても、確信が強まり、うまくいかなかったときは立て直す術がない。
その結果、一気に崩れてしまう。
一方で自信は、再現性のある行動から生まれます。
うまくいった理由を言葉にできる。うまくいかなかったときに修正できる。感情が乱れても、立て直す術がある。
つまり自信は、「強く見せること」ではなく、自分を正確に見て、修正を続けられることでもあります。
では、自信が下がり始めたときに折れずに、過信にも逃げずに、どうやって本物の自信を育てればいいのか。
そこで大切になるのが、小さな成功体験です。
自信の材料は、大きな結果ではなく小さな成功体験
自信がないとき、人は大きな結果を求めがちです。
次の試合で活躍できれば変われる。レギュラーを取れれば自信がつく。
もちろん結果は大事です。
でも結果は、相手や環境など不確定要素の影響を受けます。
結果だけに依存すると、自信は不安定になります。
だからこそ、小さな成功体験が必要です。
それは自分自身で「コントロールできること」です。
練習のテーマを最後まで守れた。
ミスのあとに呼吸を一回入れて切り替えられた。
状況の確認を一回増やせた。
焦った場面で、決めたことを実行できた。
振り返りを一分でも書けた。
こうした小さな成功が積み上がるほど、
「自分は、やると決めたことを実行できる」という感覚が育ちます。
ただし、小さな成功体験は継続することで効果が出てきます。
継続するためにはモチベーションが必要です。
そのモチベーションを安定させるのが、内発的動機を引き出す目標です。
外から与えられた目標は、気持ちが入りにくいことがある
評価、周囲の期待、結果。
これらは分かりやすい反面、風向きが変わると折れやすい。
一方で内発的動機は、「自分はなぜこれをやるのか」が自分の言葉になっている分、多少うまくいかなくても戻ってきやすい。
内発的動機を引き出す問いはシンプルです。
自分はこの競技の何に惹かれているのか。
本当はどんな選手でありたいのか。
それを想像するだけで、心が高揚するのか。
この自分の中にある目標への理由が、日々の積み重ねを支えるエネルギーになります。
実践:自信を育てる3ステップ
1)内発的動機のある目標を設定する
ポイントは、「正しそうな目標」ではなく、想像するだけで心が高揚する目標にすることです。
外から与えられた目標は、やるべきことにはなる。でも苦しい時期になると、気持ちが入りにくくなります。
一方で、内発的動機のある目標には力があります。
それを思い浮かべた瞬間に、少しだけ呼吸が深くなる。
練習に向かう姿勢が前を向く。
「やらなきゃ」ではなく、「やりたい」に変わっていく。
ここで大切なのは、目標が自分の内側とつながっていることです。
誰かに認められるためではなく、勝ち負けだけのためでもなく、
自分が本当に大切にしたいものが含まれてる目標は、自然と意欲を引き出します。
意欲があると、取り組み方が変わります。
練習の質が上がる。工夫が増える。成長したくなる。
そして何より、その日の気分に左右されにくくなります。
モチベーションとは、気合いを上げ続けることではありません。
やりたい理由が、心の底から湧き出てくる状態になっていることです。
その理由がある選手は、どんな日でも、成長を積み重ねられる。
だから、内発的動機がある目標を設定することは、
日々を積み重ねられる自分であるために必要になります。
その積み重ねが、自信を育てる土台になります。
2)毎日、小さな成功を見つける
自信は、大きな勝利で一気に手に入るものではありません。
むしろ、小さな成功を毎日見つけられる人ほど、習慣化が起きやすい。
ここには脳の仕組みが関係しています。
私たちの脳は、「できた」「前に進んだ」と感じたときに、やる気に関わる神経伝達物質(代表的にはドーパミン)が働きやすくなります。
ただしドーパミンは、単に快楽を出す物質ではありません。
「この行動は次もやる価値がある」と脳に学習させる信号でもあります。
ポイントは、脳が反応しやすいのは大成功だけではないということです。
むしろ脳は、昨日より少し良かった、昨日より一歩前に進んだという「変化」に反応します。
だからこそ、日々の中で小さな成功を見つけられる選手ほど、行動が継続しやすくなります。
反対に、達成感がゼロの日が続くと、脳は「これはやっても報われない」と判断しやすく、習慣は途切れやすくなります。
だから重要なのは、派手な成果ではなく、コントロールできる成功を見つける力です。
私は、気持ちだけで自分を動かすよりも、小さな成功を毎日確認できる設計を重視しています。
そして、この小さな成功体験が、本物の自信へと変化していくのです。
3)振り返りで改善点を明確化する
振り返りは、反省ではなく改善のために行います。
反省は過去を責める方向に流れやすい。改善は未来に向けて意識を向けられる。
自信を育てるなら、振り返りは必ず成長を接続させます。
おすすめの型は、事実 → 改善点 → 次の小さな一歩です。
事実は、何が起きたかを、評価を入れずに映像のように書く。
改善点は、何を改善すれば良かったかを一つに絞る。
次の小さな一歩は、次は具体的に何をするかを、小さく、今日できるサイズにする。
例えば、
事実:後半の入りで焦ってプレーが速くなった。
改善点:焦りを感じた瞬間にやるべきことを確認する。
次の小さな一歩:焦ったときは、一呼吸とやるべきことを必ず確認する。
こうして次の小さな一歩を決めて、次の日に実行し、また振り返る。
この循環が回り始めると、「私は成長している」という感覚が積み上がっていきます。
それが能力と自信が一致していく過程となります。
自信が落ちる時期は、伸びる前兆になりうる
この曲線が教えてくれるのは、
自信が落ちる瞬間は、成長の途中で起きやすいということです。そこにいる自分を責める必要はありません。
むしろこの時期は、能力が下がったのではなく、
自分の課題が見えるようになったという意味で、前に進んでいます。
見えなかったものが見えるようになると、当然、できていない部分も目につきます。
だから自信が落ちるのは、ある意味で自然です。
ここで起きやすいことが、二つあります。
一つは、うまくいかない感覚が苦しくて、積み重ねてきたことをやめてしまうこと。
もう一つは、その苦しさから目を背けるように、根拠の薄い確信で押し切ろうとする、過信に逃げること。
大切なのは、自信が落ちたときに過信に逃げないこと。
同時に、小さな成功を重ねること。
自信が崩れた時間は、本物の自信を手にいれるためにあります。
そのために必要なのは、大きな結果ではなく、小さな成功の積み重ねです。
最終的に目指したいのは、自信を意識しなくなる状態
本当の意味で強い選手ほど、自信の有無を考えません。
自信という言葉が頭にない、という表現が近いかもしれません。
なぜなら、意識が向いているのは「自分はできるか」ではなく、
今この瞬間に、何をするかだからです。
自信がないときは、自信が欲しくなる。
けれど、自信が育ってくると、欲しいのは自信そのものではなくなります。
今この瞬間に集中できる状態になっていきます。
だから私は、自信をつくることよりも、
自信があるかないかを考える必要のない状態を目指すことが大切だと思っています。
その状態は、特別な才能で手に入るものではありません。
内発的動機が宿る目標を持ち、小さな成功を積み上げ、改善を繰り返す。
その積み重ねが、気づけば「自信があるかないか」という問い自体を手放させてくれます。
自信は、気持ちではなく設計です。
最終的には、設計した自信は、意識から消えていきます。
そして、目の前の一瞬に集中できる状態として、あなたの中に残り続けるのです。

