誠実で真面目なアスリートほど陥る、頑張っているのにうまくいかない理由

※本コラムは、結果が出ずに悩んでいる選手や、選手を支える指導者・保護者の方に向けて書いています。競技レベルや年齢を問わず、多くの現場で繰り返し見てきた構造を言葉にしました。

「これだけやっているのに、なぜ結果が出ないんだろう」

競技を続けていれば、誰もが一度はそんな壁にぶつかる。実は、これはかつての自分自身の姿でもある。練習量も決して少なくない。むしろ、周囲から見れば「よくやっている」と言われるくらい努力している。それでも結果が出ない。成長している実感も持てない。焦りや不安だけが積み重なっていく。

そんな状況に置かれたとき、多くの選手が選ぶ行動はとても似ている。

「もっと頑張ろう」 「まだ足りないだけだ」 「ここを乗り越えれば、きっと報われる」

真面目で、誠実で、競技に本気で向き合っている人ほど、そう考える。そして実際、これまでの人生で「頑張ることで乗り越えてきた経験」があるからこそ、その選択は自然でもある。

けれど、もし今、どれだけ頑張っても状況が変わっていないのだとしたら。一度立ち止まって考えてみてほしい。それは本当に「頑張りが足りない」問題なのだろうか。


かつての自分も、ここから抜け出せなかった

正直に言えば、私自身も長い間、この状態から抜け出せずにいた。

努力は裏切らないと信じていたし、実際、これまでの人生で「頑張ることで乗り越えてきた」経験が何度もあった。だからこそ、上手くいかなくなったときも、疑うべきものは努力量ではなく、自分自身の覚悟や根性だと思っていた。

今振り返ると、それは「頑張り方を変えられなかった」というより、「変えるという発想そのものを持てなかった」のだと思う。


「頑張ればいつか上手くいく」という幻想

努力は大切だ。これは間違いない。競技の世界において、努力なしに結果を出せる人はいない。

ただし、ここで一つ注意しなければならないことがある。

それは、「努力は万能ではない」という事実だ。

正確に言えば、努力の方向や前提が間違っていれば、どれだけ量を積み重ねても結果にはつながらない

それでも人は、「頑張り続けること」に希望を見出してしまう。

頑張っていれば、自分を否定しなくて済む。 頑張っていれば、今はダメでも未来に期待できる。 頑張っていれば、「何もしていない自分」にならずに済む。

だからこそ、「頑張ればいつか上手くいく」という言葉は、とても魅力的だ。

しかしこの言葉は、ときに残酷でもある。

なぜならそれは、頑張り方を変えないまま時間だけが過ぎていくことを正当化してしまうからだ。

結果が出ない原因が努力量ではなく、努力の前提や考え方にある場合、どれだけ頑張っても現実は変わらない。にもかかわらず、「まだ足りない」と自分を追い込み続けてしまう。


自分の中だけで試行錯誤する危うさ

これは、選手を見ていて感じてきたことでもあるし、同時に、かつての自分自身そのものでもある。

結果が出ないとき、多くの選手は「自分なりに考える」。これは一見、とても主体的で良い姿勢に見える。

練習内容を振り返り、試合を分析し、課題を洗い出す。どうすれば良くなるかを必死に考える。

ただ、ここに大きな落とし穴がある。

それは、自分の中だけで試行錯誤している限り、その人が「当たり前」だと思っている枠の外には出られないということだ。

人は誰でも、無意識のうちに前提を持っている。

・このやり方が正しいはずだ
・これは変えちゃいけない
・自分はこういうタイプの選手だ
・ここは努力で乗り越えるものだ

こうした前提は、普段は意識されない。むしろ「疑う必要のない常識」として機能している。

上手くいっている間は、それで問題ない。しかし一度歯車が噛み合わなくなると、その前提そのものが足かせになる。

それでも本人は、その前提を疑わないまま、その中で必死に答えを探し続ける。だからこそ、考えれば考えるほど行き詰まっていく。


真面目さが抜け出せなくさせる

皮肉なことに、この状況に陥りやすいのは「不真面目な選手」ではない。

むしろ、

・責任感が強い
・指導を素直に聞いてきた
・自分を律することができる

そんな選手ほど、自分を変えることが難しくなる。

なぜなら彼らは、「正しくあろう」とする力が強いからだ。

これまで積み上げてきた努力や価値観を否定することは、自分自身を否定するようで怖い。だから無意識に、同じ前提の中で頑張り続けてしまう。

でも、その真面目さが、結果的に選択肢を狭めてしまうこともある。


変えるべきは努力量ではなく「当たり前」

結果が出ないとき、本当に問い直すべきなのは「どれだけやっているか」ではない。

・自分は何を当たり前だと思っているのか
・なぜそのやり方を選び続けているのか
・それは本当に今の自分に合っているのか

こうした問いは、正解をすぐにくれるものではない。むしろ、一時的に不安を大きくすることもある。

それでも、この問いを避け続けている限り、状況は変わらない。

当たり前を変えるというのは、技術を一つ修正するよりもずっと勇気がいる。これまで信じてきたものを一度手放す必要があるからだ。


上手くいかない今は、実はチャンスでもある

結果が出ない時期は苦しい。自信は揺らぎ、周囲の目も気になる。

しかし見方を変えれば、それは「今までのやり方では限界が来た」というサインでもある。

もし何も問題がなければ、人は変わる必要がない。上手くいかなくなったからこそ、これまで疑わなかった前提を見直すきっかけが生まれる。

一人で考え続けることをやめ、外の視点を入れること。自分を否定するためではなく、可能性を広げるために当たり前を疑うこと。

それは弱さではない。むしろ、次の段階へ進むための強さになる。


頑張り続ける勇気と、頑張り方を変える勇気

だからこそ、自分の「当たり前」という枠の中だけで考え続けることには、限界があるのだと思っている。

枠の外に出るためには、努力だけでは足りない。視点そのものを変える必要がある。そしてそれは、一人ではとても難しい。

私自身、頑張り方を変えられなかった時間を振り返ると、「誰かに答えを教えてほしかった」というよりも、「今いる場所から一緒に考えてくれる存在」が必要だったのだと感じている。

だから私は、スポーツメンタルコーチという立場を選んだ。

ただし、誰でもいいとは思っていない。

同じように迷い、同じように自分の枠の中でもがいた経験があること。その体験を通して、努力の量ではなく、努力の向きや前提を変える必要があると身をもって知っていること。

そして、自分の意見や正解を押し付けるのではなく、選手の隣に立ち、一緒に答えを探そうとする姿勢を持っていること。

暗闇の中で出口がなかなか見えてこないとき、出口を指し示す人ではなく、出口を探し続けるために歩みを止めないよう、足元をそっと照らしてくれる存在。

私は、選手にとってそんな存在でありたいと思っている。

量を増やすことよりも、前提を見直すこと。 耐えることよりも、問い続けること。

もし今、どれだけ努力しても前に進めない感覚があるなら。それはあなたが弱いからではない。

変わる準備が整った、ただそれだけのことだ。

上手くいかない今は、終わりではない。

次のステージへ進むための入口に、あなたは立っている。


おわりに

結果が出ない時期に必要なのは、根性論でも精神論でもありません。

「自分は何を当たり前だと思い込んでいるのか」
「その前提は、今の自分を本当に助けているのか」

この問いを一人で抱え続けるのは、とても難しいことです。

もし今、努力しているのに前に進めない感覚があるなら、外の視点を取り入れることは逃げではありません。それは、競技人生を長く、健やかに続けるための選択です。

このコラムが、自分自身の在り方や頑張り方を見直す小さなきっかけになれば幸いです。

スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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