その場所に行ってからではなく、行く前から|プロアスリートの内面変化と関係性の質

あるプロ野球の投手と、1ヶ月間ともに取り組んだことがあります。

当時、彼は決して調子が悪いわけではありませんでした。
でも、何かが噛み合っていない感覚が続いていた。
結果を出したい気持ちは誰よりも強いのに、どこかチームの中で空回りしているような、そんな違和感を抱えていました。

セッションの中でいろんな話をするうちに、一つのことが見えてきました。
彼は「結果を出してから、そういう選手になろう」と思っていたのです。
結果が出れば自信がつく。
自信がつけば堂々と振る舞える。
周囲との関係も自然と良くなっていく。
そういう順番で考えていました。

気持ちはとてもよくわかります。
プロの世界で戦っているなら、なおさらです。
結果がすべてとも言える環境の中で、「まず内面を整えよう」という言葉は、どこか遠いところにある話のように聞こえることもあるかもしれません。

しかし、そのときわたしが一緒に考えたのはこういうことでした。

「目指している世界にいる選手を、今この瞬間から意識して生きよう」

「なった後」ではなく「なる前」から

目指す場所にたどり着いてから変わるのではなく、たどり着く前からその選手として生きてみる。
使う言葉、醸し出す雰囲気、チームメイトやコーチへの接し方、グラウンドでの立ち振る舞い。
そういったものを、まだ何も手にしていない今から、できる範囲で体現していくことを大切にしてもらいました。

最初は少し戸惑っていたように見えました。
「結果も出ていないのに、そんなふうに振る舞っていいんだろうか」という感覚があったのかもしれません。

プロの世界には、それだけの厳しさがあります。
結果で評価される日々の中で、内面から変えていくという取り組みは、地味に映ることもある。
しかし彼は、半信半疑だったかもしれないその取り組みを、真剣に続けてくれました。

1ヶ月ほど経ったある日、こんな話をしてくれました。

同じチームの先輩から、良い意味で声をかけてもらえるようになった。
いじってもらえるようになった。
「なんか最近、話しかけやすくなったよな」という言葉も届いた。
コーチからも「最近いい感じだな」「何か変わったな」と言われるようになったと。

彼が誰かに働きかけたわけではありません。
関係性を意識的に良くしようとしたわけでもない。
ただ、自分自身の内側が少しずつ変わっていった。
その変化を、周囲の人たちが自然に感じ取り、接し方が少しずつ変わっていったのです。

関係性の質が先、結果の質はあと

組織開発の研究者、ダニエル・キムが提唱した「成功循環モデル」という考え方があります。

チームの中で良い結果を生み出し続けるためには、まず「関係性の質」を高めることが大切だとされています。
関係性の質が高まると、互いに刺激し合い、新しいアイデアや気づきが生まれやすくなる。
つまり「思考の質」が高まります。
思考の質が高まることで「行動の質」が変わり、行動の質が変わることで、初めて「結果の質」が変わっていく。そういう循環の構造です。

スポーツの現場でよく起きることがあります。
結果が出ない焦りから、結果だけを追い求めてしまう。
うまくいかないとコーチや周囲へのフラストレーションが高まり、チームの雰囲気が重くなる。
もっと頑張らなければと自分を追い込んでも、なぜかうまくいかない。

このとき起きていることは、「頑張りが足りない」のではないことが多いように感じます。
循環の入口が変わってしまっているのです。
結果の質から入ろうとすることで、かえって関係性の質が下がり、思考の質も下がり、また結果が出ない。
そういう悪循環の中に入ってしまう。

この流れを変えるきっかけは、「もっと頑張ること」ではなく、まず関係性の質を取り戻すことにあります。
そしてその関係性の質は、外側をどうにかしようとするより、自分の内側から変わっていくことの方が、実際にはずっと自然に整っていくように思います。

内面が変わると、行動が変わる。行動が変わると、周囲が変わる。

少し立ち止まって考えてみると、思い当たることがあるかもしれません。

自分の調子が良かったとき、どんな雰囲気を持っていましたか?
チームメイトやコーチと、どんな関係性の中にいましたか?
きっと、何かが自然とうまく噛み合っていたのではないかと思います。

自分の内側が整っていると、自然と周囲への接し方も変わります。
その変化を周りの人が感じ取り、声のかけ方や関わり方が少しずつ変わっていく。
そしてその関係性の中で、新しい気づきや成長のきっかけが生まれていく。

逆に、調子が落ちてきたとき。
内側の焦りや不安が、知らず知らずのうちに言葉や態度に滲み出てしまうことがあります。
自分では気づかなくても、周囲の人はそれをどこかで感じ取っています。
そして少しずつ、関係性の質が変わっていく。

これは誰かを責める話ではありません。
それだけ、自分自身の内面と、周囲との関係性は、深いところでつながっているということです。
だからこそ、関係性を変えようとするより前に、自分の内側を変えていくことが、実は周囲との関係を整える近道になる。
そして、その関係性の中で、自分が成長するきっかけが生まれ、パフォーマンスアップにもつながっていくのです。

では、具体的に何を意識するのか

「目指している選手を今から意識して生きる」と言うと、少し抽象的に聞こえるかもしれません。
では実際に、どういうことを意識するのでしょうか。

わたしがよく一緒に考えるのは、こんなことです。

あなたが目標とする選手、あるいは目指したい自分の姿を思い浮かべてみてください。
その選手は、グラウンドでどんな歩き方をしていますか?
ベンチでどんな表情をしていますか?
チームメイトに声をかけるとき、どんな言葉を選んでいますか?
うまくいかないプレーのあと、どんなリアクションをしていますか?

そういった細部を、できるだけ具体的に描いてみる。
そして、その一つひとつを「今この瞬間から」少しずつ試してみる。

「演じる」というより、「その自分として生きてみる」という感覚が近いかもしれません。
最初は少しぎこちなく感じることもあるかもしれません。
しかし、続けていくうちに、その振る舞いが少しずつ自分のものになっていきます。
そしてその変化を、周囲の人たちが感じ取り始める。
冒頭の投手が経験したことは、まさにそれでした。

「なりたい自分」を今から生きる

シーズンが始まり、試合を重ねるごとに彼の調子は上がっていきました。
あるセッションで言っていた言葉が、今でも印象に残っています。

「早く投げたくて仕方がないんです。今なら誰でも抑えられる気がして。」

表情も、声のトーンも、1ヶ月前とはまるで別人のようでした。
何かを手に入れたからそうなったのではなく、そうあろうとし続けたことで、周囲との関係が自然と変わり、その関係性の中でさらに本人が変わっていったように感じます。

目指す場所にたどり着いてから変わるのではなく、たどり着く前からその自分を生きること。
その積み重ねが、関係性を変え、思考を変え、やがてパフォーマンスにもつながっていく。

あなたが目指している世界の選手は、どんな立ち振る舞いをしていますか?
どんな言葉を使い、どんな雰囲気を持っていますか?
チームメイトやコーチと、どんな関係性を築いていますか?

その問いは、結果が出てから考えるものではないかもしれません。
今この瞬間から意識できることが、きっとあるように感じています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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