感覚が先で数字は後。データをうまく活用する。

野球のボールの回転数、サッカーの走行距離とスプリント回数、バスケットボールのシュートの確率。

現代のスポーツ現場では、以前には見えなかった数字が次々と可視化されるようになりました。
テクノロジーの進化によって、かつては感覚でしか掴めなかったパフォーマンスが、数値として現れてくる時代です。

試合が終われば、スタッツが一覧で出てくる。
練習でも、デバイスが様々なデータを記録し続ける。
コーチや分析スタッフが、数字をもとにフィードバックをくれる。
そういった環境が、今や多くの競技で当たり前になっています。

データを活用して競技力を高めていくこと、それ自体はとても意義のあることだと思っています。

ただ、実際にアスリートをサポートしていると、あることが気になるようになりました。

数字を「評価するためのもの」として使っているのか。
それとも、数字を「出すこと」を目的に追いかけているのか。

この違いが、パフォーマンスに思っている以上に大きな影響を与えているように感じます。

数字が「目的」になると、何が起きるか

たとえば、こんな場面を想像してみてください。

「今日の練習では、ボールの回転数を上げることを意識しよう」と決めて、投球練習に臨んだとします。

頭の中には常に「回転数」があります。
一球投げるたびに「どうだったか」と数字が気になり、確認しては調整を繰り返す。
どう指を引っかければ回転数が上がるか。
リリースポイントはどこにすれば良いか。
体のどこに力を入れれば数字が動くか。

こうなったとき、選手の意識はどこに向いているでしょうか。

ボールを投げる感覚ではなく、数字を出すための「体の動かし方」に、意識が向いてしまっている。

このような状態になると、本来は無意識のうちにできていたはずの動作に、ぎこちなさが生まれます。
考えながら体を動かすことで、スムーズさが失われる。
「いつもの感覚でやれていたプレー」が、どこかへ行ってしまう。

そんな経験をしたことはないでしょうか。

これは野球に限った話ではありません。
サッカーで「今日はスプリント数を増やそう」と意識しすぎると、ボールへの感覚やポジショニングの判断が鈍くなる。
バスケットボールで「シュート成功率を上げよう」と考えながらプレーすると、体が硬くなる。
どの競技でも起きうることです。
数字が可視化されればされるほど、この落とし穴にはまりやすくなります。

「意識しすぎ」がパフォーマンスを妨げる

スポーツ心理学の研究でも、これと近いことが繰り返し示されています。

「どう体を動かすか」という動作そのものに意識を向けた選手と、「どんな感覚や効果を出したいか」に意識を向けた選手を比べると、後者の方がパフォーマンスが高いという結果が、多くの研究で報告されています。

なぜかというと、動作を意識的にコントロールしようとすると、本来は自動的・無意識に行われているはずの運動プロセスを、意識が妨げてしまうからです。

私たちの体は、長い時間をかけた練習の積み重ねによって、「考えなくても動ける」状態を作り上げてきています。その自動化された動きこそが、高いパフォーマンスの土台です。

ところが、「数字を出そう」という意識が入り込むと、体が本来持っているその自動化を、頭が邪魔をしてしまう。

「数字を追いかけることで、数字が出なくなる。」

なんとも皮肉な話ですが、実際の現場でもそういう状態に陥っているアスリートと関わることがあります。
データに真剣に向き合うほど、自分の感覚から遠ざかってしまう。
そういう側面が、確かにあるように感じます。

感覚が先で数字は後

では、どうすればいいのか。

わたしが大切にしているのは、「感覚が先で数字は後」 という順番です。

「気持ちよく腕が振れた」
「スムーズに体が動いた」
「今日のあの一本、何かが噛み合っていた」

そういった感覚の手応えが先にあって、そのあとに数字を確認する。
「あの感覚のとき、数字はこうだったのか」という照らし合わせの仕方をする。

これが、データを競技力向上に本当の意味で活かすための、正しい順番だとわたしは思っています。

自分の感覚として「良い」と思えた瞬間をつかむ。
その感覚値が高かったパフォーマンスを、数字で検証していく。
そうすることで、「自分にとって良い状態とはどういうものか」が、少しずつ解像度を上げて見えてきます。

自分の内側にある「良い感覚」を知っているアスリートは、ここ一番でパフォーマンスを発揮しやすいように感じます。

なぜなら、試合中に数字は見えないからです。
スタッツはプレー中に確認できません。
頼れるのは、自分の感覚だけです。
その感覚を磨き、信じることができる選手が、本番で力を発揮できる。

逆に言えば、先に数字を目指してしまうと、自分の感覚値が高い瞬間がどんな状態なのかを、知ることができなくなってしまいます。
感覚より先に数字が来てしまうから、自分の内側からのサインに気づけなくなる。

感覚と数字がうまく結びついていくとき、データは初めて、本当の意味でパフォーマンスの助けになります。

「感覚を磨く」ということ

ここで一つ、意識してみてほしいことがあります。

練習や試合のあとに、数字を確認する前に、まず自分の感覚を言葉にしてみる習慣を持つことです。

「今日はどんな感覚でプレーできていたか」
「良かった瞬間はどこで、何を感じていたか」
「うまくいかなかったとき、体はどんな状態だったか」

こうして自分の感覚に目を向ける時間を意識的に持つことで、少しずつ「自分にとっての良い状態」の輪郭が見えてくる。
その上で数字を見ると、「あの感覚のときに、こういう数字が出ていたのか」という形で、データが自分の感覚と結びついていきます。

数字が「外から押しつけられる評価」ではなく、「自分の感覚を裏付けてくれるもの」に変わっていく。
このとき初めて、データは競技力向上の本当の武器になるのです。

自分の感覚を、もう一度信じてみる

高いレベルで競技をしているアスリートほど、データと真剣に向き合います。
それは競技への誠実さの表れであり、素晴らしいことだと思っています。

ただ、真剣に向き合うからこそ、「数字が出ていないと不安」、「スタッツが良くないと自信が持てない」という状態に陥りやすくもなります。

数字が判断の基準になりすぎると、自分の感覚への信頼が少しずつ薄れていきます。
「今の感じ、良かったな」という自分の内側からのフィードバックより、数字という外側からの評価を信じるようになる。

しかし、ここで一度振り返ってみてください。

自分が本当に良いパフォーマンスを発揮できていたとき、数字を意識していたでしょうか。

おそらく、体が自然に動いていて、感覚が研ぎ澄まされていて、気づいたらプレーが終わっていた。
そういう状態だったのではないでしょうか。

高いパフォーマンスが出ているとき、選手は「数字を出そう」と考えていません。
自分の感覚を信じ、無意識に体を動かせているとき、結果として数字がついてきている。

数字はその状態を「後から確認する」ためのもの。
先に数字があるのではなく、先に感覚があるのです。

データを「使う」選手でいてほしい

データを否定したいわけではありません。
数字は、パフォーマンスを客観的に見るための大切なツールです。
うまく使えば、自分では気づけなかった成長や課題を教えてくれます。

ただ、ツールはあくまでツールです。

数字に「使われる」のではなく、数字を「使う」選手でいてほしい。
私はいつもそう思っています。

まず自分の感覚を信じてプレーする。
スムーズに動けた感覚、気持ちよく体を使えた感覚、何かが噛み合った感覚。
そういう瞬間を自分でしっかりとつかめるようになること。
これが、競技力向上の土台だと私は考えています。

そして、その感覚の良いパフォーマンスを、数字で検証していく。
この繰り返しの中で、「自分にとっての高いパフォーマンスとは何か」が、どんどん明確になっていくはずです。

この順番を大切にできているアスリートが、自分自身のパフォーマンスをより深く理解し、長く高いレベルで活躍していけるように感じています。

あなたが自分の感覚を信じて、のびのびとプレーできる時間が、少しでも増えていくことを願っています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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