大逆転は、気持ちではなく順番で起きる

ミラノ・コルティナオリンピックのフィギュアスケートペアで、
三浦璃来選手と木原龍一選手が金メダルを獲得しました。

前日のショートでミスがあり、5位からのスタート。
それでも翌日のフリーをまとめ上げ、大逆転で金メダル。

そんなお二人の演技を見ながら、私はこう考えていました。
立て直すことは、気持ちの強さというより、本来やるべきことの順番を、取り戻す作業なのかもしれない。

もちろん、外からその中身を断定することはできません。
ただ、現場で多くの選手を見ていると、ミスの翌日に崩れるときには共通の構造があり、立て直せるときにも共通の手順があるように感じます。
今日はその手順を、どの競技にも持ち込める形で整理します。

ミスの翌日に崩れるとき、目に見える変化が起きている

ミスからの立て直しは精神論になりやすい。
でも現場では、崩れるときほど意外と身体に現れます。

私が最初に確認するのは、次の三つです。

  • 呼吸が浅くなっていないか
  • 視線が狭くなっていないか
  • 動作の入りが急いでいないか

これはメンタルを言い当てるためではありません。
再現性が落ちる直前に起こりやすい変化だからです。

呼吸が浅くなると、出力の調整が荒くなりやすい。
視線が狭くなると、判断が早まりすぎるか遅れすぎる。
入りが急ぐと、丁寧さが抜けて感覚が薄くなる。

感覚が薄くなると人は不安になります。
不安になると、さらに急ぎます。
この循環が、翌日の崩れた状態を作ります。

だから立て直すときには、気持ちを変えるよりも、この循環を止めることを行います。

立て直しの手順は、事実、改善、固定

ミスの翌日に必要なことは多くありません。
むしろ少ない方がいい。増えるほど脳が処理しきれなくなるからです。

立て直しの手順は、次の三つです。

事実
改善
固定

気持ちは波のようなものです。止めようとするほど思うようにコントロールできなくなります。
しかし、順番はコントロールできます。コントロールできることから整える。
それが、翌日に実戦で機能する立て直し方です。

事実・評価を混ぜず、現象に戻す

事実・整理の目的は反省ではありません。
改善点を一点化するためです。

ここで結論を急がない。

自信がない
メンタルが弱い
向いていない

こうした言葉は、翌日の前提になってしまいます。
前提になると、プレーの入りが変わります。
だからこそ、現象へと意識を戻します。

書き出すことは三行で十分です。

  • どこで何が起きたか
  • 直前に何をしていたか
  • その後に何が連鎖したか

さらにもう一段だけ、現象を分類します。原因探しではなく、ズレの種類を見る。

  • タイミングのズレ
  • 角度のズレ
  • 距離感のズレ
  • 出力の過不足
  • 注意の置き場所のズレ

この分類ができると、改善が小さくなります。
小さくなるほど、当日扱いやすくなります。

改善・一点化の基準は、再現性と波及効果

翌日に扱う改善点は一つだけ。
その一点は、次の二つを満たすものにします。

  • 再現できるか
  • 波及効果があるか

再現できるとは、試合中に思い出せること。
波及効果があるとは、それが整うと他も自然に戻りやすいこと。

集中する、みたいな大きい言葉は扱いにくいことがあります。
視線をどこに置くか、呼吸のどこを固定するか、入りのテンポをどうするか。
こういう具体的な内容の方が、意識しやすい。

改善は派手でなくていい。
翌日に必要なのは、自分がコントロールできること一点です。

固定・気持ちが揺らいでも戻れる場所を作る

固定とは、落ち着くための儀式ではありません。
気持ちが揺らいだとしても、戻れる場所を作ることです。

固定は次の三つに収めます。

  • 身体の起点
  • 注意の置き場所
  • 最初の実行

身体の起点は、足裏の圧、重心の高さ、吐く呼吸など、短時間で確認できるもの。
注意の置き場所は、見える対象を一つに寄せること。
最初の実行は、テンポや確実性を優先すること。

ここで狙うのは、良いプレーではありません。
順番を戻すことです。
順番が戻ると、判断と実行は戻りやすい。

禁忌・翌日に避けた方がいいこと

ミスの翌日に、よく起きる落とし穴があります。

  • 改善点を増やす
  • ルーティンを変える
  • 感覚の再現に寄せすぎる

特に三つ目は良い意図で起きます。
うまくいった感覚を取り戻したくなる。
でも、その感覚が生まれた条件は毎回同じではありません。
再現できないものを再現しようとすると、思考することがさらに増え、
体の動きが悪くなっていきます。

だからこそ、感覚よりも順番を優先します。
順番は設計できます。
設計できるものから整える方が、戻りが早いことが多いです。

方法よりも大切なこと

ここまでは、立て直すための手順について書いてきました。
事実を現象として整理し、改善点を一点に絞り、行動の順番を固定する。
気持ちが落ち着かない状態でプレーを成立させるための、現実的な支えです。

ただ、私が本当に大切にしたいのは別のところです。
方法があるから立て直せる、ではなく。
たとえ方法に頼らなくても、自分はやれると心の底から思えること。

その感覚は、気合で作るものではなく、積み重ねで育ちます。
ミスの意味づけ。評価の前提。自分との関係。
そこが整っていくと、立て直しは技術というより、自然な戻り方になっていきます。

私が行っているメンタルコーチングも、手順を増やすのではなく、そうした土台を整えることに重きを置いています。
立て直すことに追われない状態。
そこへ向かっていくために、今日の内容が小さな手がかりになればと思います。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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