競技と本気で向き合ってる選手ほど、勝ちにこだわります。
そして勝ちにこだわるほど、他者との比較が増えていきます。
結果。スタッツ。評価。相手のレベル。
比較が増えるのは自然です。プロを目指すなら、なおさらです。
ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。
比較が悪いのではありません。比較が前に出た瞬間、プレーの選択が変わってしまうのが問題です。
そしてもう一つ。
メンタルは、強いか弱いかではありません。
多くの場合、メンタルが崩れたように見えるときに起きているのは、気持ちの問題というより、基準が外に向いて、判断と行動が小さくなっていることです。
そのことを分かりやすく示しているのが、エイムズの実験です。

エイムズの実験が示していること
子どもを2人1組にして課題に取り組ませ、解けるたびに2人の成績が読み上げられます。
Aグループには、成績が良かった方が勝ち。勝った方にご褒美がある。
Bグループには、勝ち負けはなし。協力してくれたらご褒美がある。
するとAグループは、結果を能力や運と結びつけやすくなり、Bグループは努力や工夫と結びつけやすくなります。
大事なのは、どちらが正しいかではありません。
同じ課題でも、何を基準に競わせるかで、結果の受け取り方が変わるという点です。
そして受け取り方が変わると、その後の行動が変わります。
これは気持ちの問題というより、プレーをどう選択するかの問題です。
他者との競争が生む過信の正体
過信というと、調子に乗ることを想像するかもしれません。
でも競技で起きる過信は、もっと静かに起こります。
勝っているから、自分のやり方は正しいと思い込む。
できている部分だけを見て、課題から目をそらしてしまう。
うまくいかない兆しがあっても、見ないふりをしてしまう。
要するに、実力の見積もりが少しずつズレていってしまうのです。
他者との競争が強いほど、選手は次のような捉え方をしやすくなります。
ミスしたくない。負けたくない。評価を落としたくない。
このような捉え方をすると、成長するための行動が減っていきます。
例えば、こういう変化が起きます。
本当は攻めたい場面で、無難な選択が増える。
本当は試したいことがあるのに、失敗しないことを考える。
苦手を改善するより、得意なことだけを見ようとする。
これは弱さではありません。
結果と評価が前に出たとき、人は自然とそうなってしまうのです。
そして皮肉なことに、この状態は勝負どころで崩れやすくしてしまいます。
守りに入る。判断が遅れる。プレーが小さくなる。
一度このような状態になってしまうと、立て直しがしにくくなります。
基準が外にあると、外側が乱れた瞬間に内側も乱れるからです。
自分との競争が生む意欲の正体
一方で、自分との競争は意欲を生みやすいです。
これは気合の話ではありません。
意欲が続く選手は、気持ちが強いのではなく、基準の置き方がうまいです。
他者との競争は、相手や評価など、コントロールできない要素が中心になりやすいです。
自分との競争は、準備・判断・習慣など、コントロールできる要素が中心になりやすいです。
主語が自分に戻ると、行動が変わります。
ミスは失敗ではなく改善点になります。
苦手を見ても成長と結び付けやすくなります。
工夫が増え、練習の質が上がります。
試合の怖さが、挑戦という機会に変わります。
意欲は、心の中から湧くというより、環境と基準の置き方次第で変わってくるのです。
勝負の世界にいるからこそ、基準が大切です
ここまで読むと、他者と比較するなと言っているように聞こえるかもしれません。
違います。競技は勝ち負けが必ずあります。
そして、プロを目指すなら、比較されることはついてまわります。
ただ、比較が問題なのではありません。
比較が基準になった瞬間に、プレーの選択が変わってしまうことが問題です。
勝ちたいと思うほど、人は自然と自分の外側を見ます。
相手の強さ。周りの評価。結果。期待。
それ自体は悪いことではありません。
でも、そこで判断の軸まで外に渡してしまうと、プレーが小さくなります。
無難を選び、挑戦や失敗を避ける選択が増えていきます。
だから大切なのは、比較をなくすことではなく、基準を自分自身に戻し続けることです。
相手を見るとしても、判断の軸を相手にしない。
自分が大切にしたいことの基準に戻って、そこから選ぶ。
その積み重ねた先に成長があり、結果として勝ちがついてきます。
自分に勝つとは何か
自分に勝つとは、気合で自分を追い込むことではありません。
もっと静かで、もっと実戦的なことです。
比較しそうになった瞬間に、基準を自分に戻せる回数を増やすことです。
例えば、試合中にこういう瞬間があると思います。
ミスをして、評価が頭をよぎる。
相手のプレーが気になってしまう。
結果のことばかりが気になってしまう。
このときに必要なのは、強い気持ちではありません。
基準を自分に戻すことです。
自分は今日、どんなプレーを選ぶと決めていたか。
この時間を自分の成長に繋げるためにどんな選択をするか。
その基準に戻って、もう一度選び直す。
その基準を自分に戻せるかが、競技人生をより良くする軸になります。
意欲が続く選手は、特別な精神力があるというより、自分の内側と向き合える回数が多いのです。
今日からできる基準の戻し方
最後に、たった1つの問いを置きます。
これが、他者比較から自分基準へと戻るスイッチになります。
それが、「今日の自分に勝つなら、どんな行動を選びますか。」
ポイントは、結果ではなく行動で答えます。
決めたことはしっかりとやり切る。
積極的に挑戦していく。
成長に繋がる選択は何かと問いかける。
試合が終わる瞬間まで走り続ける。
そして練習後に一言で振り返ります。
今日はやり切れた。
今日は挑戦できた。
今日は成長を選べた。
今日は走り切れた。
この振り返りが、競技を意欲が育つ構造に変えていきます。
他者との競争は過信を生みやすく、自分との競争は意欲を生みやすいです。
勝負の世界にいるからこそ、忘れないでいたい順番があります。
比較はついてまわります。けれど、基準を自分に戻し続けることはできます。
その積み重ねが、自分自身を成長させることになり、
その成長が競技人生をより良くしていく軸となるのです。

