このテーマは、前回のコラムともつながっています。
整えることの本質や、心が乱れる構造については、そちらで詳しく触れています。
試合前。
心拍が上がる。
手のひらが少し冷たい。
頭の中では、いくつもの未来が浮かぶ。
落ち着かなければ。
整えなければ。
いつも通りにやらなければ。
そう思えば思うほど、
心は静かにならない。
ここまでは、多くの選手が同じです。
違いが生まれるのは、そのあと。
本当に強いアスリートは、
整ってから戦おうとはしません。
整っていなくても、立つ。
緊張があってもいい。
不安があってもいい。
思考がざわついていてもいい。
それを消してから戦うのではなく、
そのまま連れていく。
整っていることと、
パフォーマンスが出ることは
必ずしも一致しません。
適度な緊張は集中力を高めます。
心拍が上がるのは、体が戦う準備をしている証拠です。
問題なのは状態ではありません。
その状態をダメだと判断することです。
緊張している自分は弱い。
そう思った瞬間から、
競技とは別の戦いが始まります。
整っていなくても強い選手は、
心と戦いません。
緊張しているな、と見る。
不安があるな、と気づく。
そして、戻る。
一球に。
一動作に。
目の前のプレーに。
状態を整えるのではなく、
行動に戻る。
この戻れる感覚を、
日常の中で何度も積み重ねています。
気分が乗らない日。
集中できない日。
迷いがある日。
それでも、やるべきことに戻る。
完璧な自分をつくるのではなく、
どんな自分でも動けるようにしている。
だから、流れが崩れても慌てない。
ミスをしても引きずらない。
大舞台でも、自分の判断ができる。
整っていなくても強いとは、
心が静かなことではありません。
心がどうであっても、
プレーを続けられること。
それが、本当の意味でのメンタルの強さです。
試合前だけ整えようとする人は多い。
でも、本当に差がつくのは、
何も起きていない日の在り方です。
その日の積み重ねが、
本番でそのまま出る。
整っているから強いのではない。
整っていなくても、
戻れるから強い。
そしてその力は、
一人で無理に作るものではありません。
正しい整え方を知り、
自分の揺れを扱えるようになった選手から、
競技の安定感は変わっていきます。
強さとは、
特別な状態になることではない。
どんな状態でも、
競技を続けられること。
そこに辿り着いた選手は、
もう状態に振り回されません。



