小さな変化に気づける自分でいること|アスリートに必要な感度の磨き方

怪我をするとき、大きなミスを犯してしまうとき、あるいは調子が崩れていくとき。
振り返ってみると、その前にいくつもの小さなサインが積み重なっていたことに気づくはずです。

何かが大きく動く前には、必ず兆しがあります。
一つひとつは小さくて、見えにくい。
だからこそ見過ごされてしまう。
そして気づいた頃には、すでに大きな出来事として目の前に現れている。

そういった経験を、一度はしたことがあるアスリートは少なくないと思います。
あるいは、怪我をしたときや大きなミスをした後に振り返ってみると、「あの時、確かに何かがおかしかった」と気づくこともあるかもしれません。

だからこそ、その小さな変化に気づけるかどうかが大切になるのです。
今回は、小さな変化への感度を磨くためにできることをまとめました。

兆しは小さなところから始まる

競技の現場で長く関わってきて、強く感じることがあります。
それは「大きなことが起きる前には、必ず小さな前触れがある」ということです。

練習の質が少しだけ落ちている。
睡眠が浅い気がする。
なんとなく気持ちが乗らない日が続いている。
身体のどこかに違和感がある。
そういった「なんとなく」の積み重ねが、やがて怪我や不調、あるいは試合での大きなミスへとつながっていくことが少なくありません。

逆に言えば、そういった小さな変化をその都度察知して、ちゃんと対応できていれば、多くの場合、大きな問題になる前に手を打てるはずなのです。

だからこそ、「小さな変化に気づける自分でいること」は、アスリートとして本当に大切な能力だと思っています。
これは技術でも体力でも戦術でもない。
でも、パフォーマンスを長期にわたって支えるために、じつはとても重要な要素の一つです。

どうすれば気づける自分になれるのか

小さな変化に気づく感度を高めるために、私がお勧めしていることの一つが、自然の豊かな場所に身を置く習慣をつくることです。

少し意外に感じるかもしれません。
でも、これにはしっかりとした理由があります。

ミシガン大学の心理学者カプラン夫妻が提唱した「注意回復理論(Attention Restoration Theory)」という研究があります。
私たちの注意力には2種類あって、仕事や競技のように意識的に集中するときに使う「方向性注意」と、自然の風景や音にふと引き寄せられるときに働く「非自発的注意」です。
カプラン博士らの実験では、植物園を歩いたグループと繁華街を歩いたグループで注意力を比較したところ、植物園を歩いたグループの注意力スコアが約20%高くなったという結果が出ています。

これはなぜかというと、繁華街では車や自転車など特定の対象に細心の注意を払う必要があるため、方向性注意を消耗してしまう一方、植物園のような自然の中では、植物の様子や虫の鳴き声、川のせせらぎなど様々な対象に五感を使って意図せず注意を払う「選択性注意」が高まり、それによって方向性注意が回復したと考えられています。

さらに注目したいのが、自然の中での「気づき」そのものについてです。
「あ、ここに虫がいた」「この花、形が変わっているな」という気づきは、疲れた脳を休ませながら、不随意注意を優しく刺激するプロセスであるとされています。
つまり、自然の中で小さなものを見つけようとする習慣そのものが、注意の感度を高めるトレーニングになっているわけです。

自然の中には、情報がたくさんあります。
風の音、葉の揺れ方、光の差し込み方、花の咲き方、鳥の羽の色の変化。
それらはすべて、季節とともに少しずつ動いています。
でも、ぼんやりと眺めているだけでは見えてこない。
意識を向けて、しっかりと感じようとしてはじめて、気づくことができる。

その気づこうとする姿勢によって、小さな変化に対する感度を、自然の中で繰り返し磨くことができるのです。

その感度が競技に直結する

「この花、先週より開いている」
「朝の空気が少し変わった気がする」
そんなふうに、日常の中で小さな変化を捉える習慣が少しずつ育まれていきます。

そしてそれは、競技の現場でも確実に生きてきます。

自分の身体の微妙な変化、チームの空気感の変化、試合の流れの変化。
そういったものを感じ取る感度が、自然の中での積み重ねによって磨かれていく。
普段から小さなものに気づいている人は、競技の中でも小さなサインを見落とさないのです。

例えば、試合中に相手の動きが少し変わったとき。
疲れが出てきたのか、それとも何か仕掛けようとしているのか。
そういった微細な変化を察知できるかどうかが、判断の速さや精度に直結します。
あるいは自分自身の身体のサインに対しても同じです。
「いつもと少し違う」という感覚を流さずに拾えるかどうかが、怪我の予防にも、パフォーマンスの安定にもつながっていきます。

トップアスリートほど、この感度が高いと感じます。
派手なプレーや圧倒的な身体能力だけがトップを支えているのではなく、日々の微細な変化を見逃さない観察眼と感受性が、長くトップであり続けることを支えているのだと思います。

これはただの精神論ではありません。
日々の生活の中で「気づく」という行為を積み重ねることが、脳の注意力そのものを鍛えていくということが、科学的な研究からも裏付けられているのです。

感じる力は育てられる

「感性は生まれつきのもの」と思われることがありますが、私はそうは思っていません。
小さな変化に気づく力は、意識と習慣によって、誰でも少しずつ高めていけるものだと感じています。

忙しいシーズン中は難しいかもしれません。
それでも、週に一度でも、自然の中をゆっくり歩く時間をつくってみてください。
スマートフォンをポケットにしまって、目の前にあるものをただ感じる時間を。

歩きながら、空の色を見てみる。
足元の草や石に目を向けてみる
風の温度や匂いを感じてみる。
特別なことは何もしなくていい。
ただ、「気づこうとする」だけでいい。

最初はうまくいかなくても構いません。
「何も気づけなかった」という日があっても、それでいい。
続けていくうちに、少しずつ世界の解像度が上がっていく感覚が出てくるはずです。

そういった積み重ねが、競技の中での自分自身への気づきを深め、長いアスリート人生を支える土台の一つになっていくと、私は信じています。

大きな変化は、いつも小さなところから始まっています。
だからこそ、小さなものを見逃さない自分でいること。
それが、あなたのパフォーマンスと、競技への向き合い方を、きっと変えてくれるはずです。

【無料メールセミナー】モチベーションと自信を高める5日間 〜目標設定 × 結果に相応しいメンタルの特定 〜
スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

目次