うまくいかない時ほど、自分の枠の中で考え続けてしまう

調子がいい時は、考えなくても身体が動きます。判断も速いし、迷いも少ない。ところが一度うまくいかなくなると、急に「考える時間」だけが増えていく。映像を見返し、練習メニューを組み替え、言葉を変えて自分に言い聞かせる。それでも抜け出せない。そんな経験は、競技を本気でやっている選手なら一度は経験あるはずです。

ここで起きているのは、努力不足でも根性不足でもなく、思考の枠の内側で答えを出そうとし続けているという現象です。

思考の枠とは何か

「思い込み」は、頭の中に浮かぶ考えだと思われがちです。でも実際には、もっと手前にあります。
思い込みは、考えそのものではなく、考える前提です。

  • ミスは減らすべきだ
  • ここで結果を出さないと意味がない
  • 自信がある状態で臨むべきだ
  • 調子の良い感覚を再現できなければいけない

この前提が、思考の枠をつくります。枠の内側で考える限り、どれだけ工夫しても枠に合う答えしか出てきません。つまり、答えが出ないのではなく、出てくる答えの種類が最初から制限されているのです。

うまくいかない時ほど、枠の中に閉じこもる理由

行き詰まると、人は安全な場所に戻ろうとします。これは自然な反応です。
うまくいかない状態は、身体にとっては「脅威」や「危機」に近い。すると視野は狭くなり、選択肢は減り、確実そうなものだけを選びたくなる。

このとき起きやすいのが、次のループです。

  1. 失敗や違和感が起きる
  2. 「正解」を急いで探す
  3. 既に知っている方法・得意な方法に寄る
  4. うまくいかず、さらに焦る
  5. もっと強く「正解」を求める

枠の中で考えるほど、枠が強化されていく。
そして考えているのに前に進まないという、いちばん苦しい感覚が残ります。

学術的に考えると:成功体験の誤学習(誤った因果の固定)

ここで厄介なのが、成功体験です。成功は自信になります。しかし同時に、学習の仕方によっては足かせにもなります。

私たちの脳は、うまくいった出来事に対して「何が良かったのか」を結びつけて覚えようとします。これは学習として健全です。問題は、成功の要因が本当は複数あるのに、分かりやすいやり方だけを要員だと決めてしまうことです。

たとえば、以前勝てたときには

  • 相手の特徴
  • その日のコンディション
  • チーム状況
  • 直前の練習量
  • たまたま噛み合った判断
    といった条件が重なっていたかもしれない。

それでも人は、「このルーティンをやったから勝てた」「このフォームだから入った」「この考え方だから落ち着けた」と、単一の要因にまとめたくなる。これが成功体験の誤学習です。
学術的には、結果から原因を単純化して固定してしまう誤った因果の学習や、同じ手順に固執する心的固定(メンタルセット)として説明される領域に近い現象です。

成功体験が強いほど、ルールが強くなります。

  • この形でなければダメ
  • これをやれば戻れるはず
  • 以前と同じ状態を再現しなければいけない

条件が変わっているのに、同じルールを適用し続ける。
だから、うまくいかない時ほど、枠の内側に閉じ込められやすいのです。

具体例:成功体験が「枠」になる瞬間

たとえば、ある選手が大事な試合で結果を出したとき、「試合前日に同じルーティンをやった」「アップで同じ音楽を聴いた」「最初のプレーを攻めで入った」など、いくつかの要素が偶然噛み合ったとします。すると次の試合から、その一部が勝ちパターンとして固定されやすい。

本来は、相手の出方や試合の流れ、当日の身体の反応に合わせて柔軟に調整できることが強みなのに、枠が強くなると「再現」そのものが目的になります。
再現できない=不安、という構図ができ、試合前からエネルギーを消耗する。結果として、プレーの幅が狭くなり、さらに「やっぱりあのやり方が必要だ」と枠が補強されていく。

成功体験は武器ですが、再現すべき型に変わった瞬間から、武器が体の自由を奪う鎧にもなります。

枠を広げるとは「正解探し」から「仮説づくり」へ移ること

枠の中で苦しくなると、私たちは正解を探します。
でも枠を広げるときに必要なのは、正解ではなく仮説です。

正解:当てにいく(外れたら自分を責めやすい)
仮説:試して確かめる(外れても学びが残る)

この切り替えができると、行き詰まりが「失敗」ではなく「更新の合図」に変わります。

枠を広げるための3つの問い

ここからは、今日そのまま使える整え方です。枠の外側に一歩だけ足を踏み出すための問いです。

1)いまの自分は、何を前提にしている?

「ミスは減らすべき」「完璧にやるべき」など、前提を一文にします。前提は、見えないままだと力が強い。言語化した瞬間に、扱える対象になります。

2)その前提は、いつ・どこで正しくなった?

過去の指導、過去の成功、過去の失敗。起源に目を向けると、「絶対」だと思っていたルールが、実は当時の最適解だったと気づけます。

3)その前提を10%だけ緩めるなら、次の一手は何?

いきなり枠を壊す必要はありません。10%でいい。
例:完璧にやる → まずは安全に繋ぐ
例:感覚を再現する → 再現ではなく、幅で許す
例:攻め続ける → まず1回整える

小さく試せる一手は、枠の外側への入口になります。

枠を広げるミニワーク(3分でできる)

練習や試合の前後で、紙かメモにこれだけ書きます。

  • いまの枠(前提):「〜すべき」「〜でなければ」を一文
  • 代替の枠:「もし〜でもいいとしたら?」を一文
  • 今日の実験:代替の枠に沿った行動を1回だけやる

ポイントは、成功させることではなくデータを取ること
枠が広がると、結果より先に反応の違いが見えてきます。

うまくいかない日は「能力不足」ではなく「枠を広げる日」

私は、うまくいかない時間を悪いものだとは思っていません。
むしろ、うまくいかない日は枠を広げるサインです。

うまくいっている間は、枠は推進力になります。
うまくいかなくなったときは、枠があなたを止めます。

その切り替わりが起きたなら、やるべきことは一つ。
枠の内側で答えを出そうとする前に、枠そのものを扱うことです。

考えても考えても抜け出せないときは、あなたの思考が足りないのではなく、あなたが悪いのでもない。
ただ、考えている場所が同じだけかもしれません。

成長のきっかかけのほとんどは、枠の外側にあります。
だから今日、うまくいかない自分を責める代わりに、こう問い直してみてください。

「いまの自分は、どんな枠の中で戦っているんだろう」

そこから先は、枠を広げて、新たな視点を手にするための時間になります。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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