怪我をした選手の不安が増える理由とリハビリ期間を有効にする考え方

怪我をすると、できることが一気に減ります。
練習も試合からも離れる。身体も思うように動かない。

でも、時間は増えます。

この余白があるからこそ、頭の中で同じことばかり考えてしまうことがあります。
復帰できるのだろうか。もし必要とされなくなったら。置いていかれるかもしれない。
こうした反芻(はんすう)思考は、怪我をした選手にとって自然な反応です。
真剣に競技と向き合ってきたからこそ、不安が出るのは当たり前です。

ただ、問題はここからです。
考えれば考えるほど、気持ちが重くなっていく。眠りが浅くなる。焦りが増える。
そして、身体を回復させるために必要なエネルギーまで奪われていく。

今日は、怪我の時間をただ耐える時間にしないために、不安が増えやすい理由と、リハビリ期間を有効にする考え方をまとめます。
なるべく専門用語を避け、選手が理解しやすい言葉でまとめたいと思います。

怪我をすると不安が増えるのは自然です

怪我の期間は、心が警戒モードになります。

治るか分からない。
復帰の時期が読めない。
ポジション争いが怖い。
評価が落ちるかもしれない。
再発したらどうしよう。

こうした不確実性が増えるほど、脳は安全を確保しようとして、最悪の未来を先回りして想像します。
不安は弱さではなく、自分自身を守ろうとする機能です。

さらに、アスリートほど努力は前に進むことという感覚が強い。
でも怪我は、その前に進む力を一度止めます。

ここが苦しい。
前に進みたいのに、止まらざるを得ない。
このギャップが、不安を強くします。

覚えておいてほしいのはこれです。

反芻思考が出るのは弱いからではなく、真剣に競技と向き合ってきた証拠。
問題は、反芻思考が出ることではなく、反芻思考に飲まれ続けてしまうことです。

不安が増える選手に起きやすい反芻のループ

怪我中の不安は、だいたい同じ形で強くなります。

  1. 未来が不確実になる
  2. 頭の中で最悪の想定が増える
  3. 反芻思考が止まらなくなる
  4. 眠りや集中が乱れる
  5. 回復に必要な余裕が減る
  6. さらに不安が増える

このループに入ると、何か解決策を見つけようとして考え続けてしまいます。
でも、答えがすぐ出ない問いを回し続けるほど、心が消耗していきます。

だから必要なのは、無理に前向きになることではありません。
考え方の方向を整えて、反芻に飲まれない土台を作ることです。

補足として、PTG(Posttraumatic Growth:心的外傷後成長)という考え方があります。辛い出来事のあとでも、向き合い方次第で価値観や強さが育つことがある、とされています。
つまり、向き合い方次第で、怪我の期間は成長につながる時間にもなり得るということです。

リハビリ期間を有効にする鍵は考え方の使い分け

怪我の期間を有効にするうえで大切なのは、思考の質を変えていくことです。

怪我のときの考え方には、おおまかに2種類あります。

考えるのを止めたいのに勝手に浮かんでくること(不安が増える)
意味を整理するために意図的に考えること(行動が戻る)

怪我の直後は、前者が増えます。これは自然です。
でも、少しずつ後者を増やしていけると、リハビリ期間は単なる待ち時間ではなく、これからの競技人生をさらに良くしていくきっかけになり得る。

ここからは、そのための具体的なやり方を3つ紹介します。

反芻思考を減らすのではなく、使い方を変える3ステップ

ステップ1:今の思考に名前をつける

考えが回り始めたら、内容を止めようとする前に、まず分類します。

これは不安。
これは焦り。
これは比較。
これは後悔。

たったこれだけで、思考と自分の距離が少し開きます。
距離が開くと、次の一手を選べるようになります。

怪我の期間は、身体が動かない分、心が自動運転になりやすい。
だからまず、気づける状態に戻すことが大切です。

ステップ2:問いを変える

反芻思考への問いは、だいたい答えが出ません。

なぜ怪我した。
いつ治る。
元に戻れる。

大切な問いです。
ただ、この問いだけを回し続けると、心が消耗しやすい。

ここに、意味づけの問いをひとつ足します。

この怪我で、手放す必要がある習慣は何だろう。
復帰した時、以前と同じでいい部分と変えたい部分は何だろう。
今の自分が整えるべき土台は何だろう。

問いが変わると、思考の方向が変わります。
方向が変わると、行動が戻ってきます。

ステップ3:気持ちではなく、仕組みで整える

怪我の期間は、調子が良い日も悪い日もあります。
だから、前向きになれたかどうかで自分を評価しないこと。

代わりに、毎日これだけ書きます。
ノートでもスマホのメモでもOKです。

  1. 今日の小さな成功(小さくてOK)
    例:リハビリをやり切った、早く寝られた、食事を整えた、散歩できた、呼吸を意識できた、今できることを探せた
  2. 今日の感情をひとつ選ぶなら
    例:置いていかれるかも
  3. その感情にどんな意味があるか?
    例:置いていかれないために、今日は回復の質を上げる。今は土台づくりのフェーズ。

これを続けると、怪我の時間が自分を前に進める時間になります。
どんな感情が出てきたとしても、対応するための仕組みが出来上がります。

リハビリ期間に育てられるもの

怪我の期間は、競技の練習量は減ります。
でも、その代わりに育てられるものがあります。

自分の状態を言葉にする力
焦りを扱う力
回復を積み上げる力
体と対話する力
競技との関わり方を整える力

これらは、復帰したときにプレーを支える土台になります。
技術や戦術のように、目に見えにくい。
でも、ここが整っている選手ほど、いざというときに頼りになる。

周囲ができること:励ましより言語化の伴走

怪我をしている選手に、善意で言いがちな言葉があります。

プラスに考えよう。
この経験も意味あるよ。

刺さるときもあります。
でも刺さらないときは、分かってもらえていないになりやすい。

代わりに力になるのは、言語化を助ける問いかけです。

今いちばんキツいのは、体?気持ち?未来のこと?
今日は何がいちばんしんどかった?
その不安って、何を守ろうとしてると思う?

言葉になっていくほど、反芻思考は落ち着きやすくなります。
自分の状態を言語化できるほど、回復の設計もやりやすくなるからです。

最後に:怪我はあなたを弱くするだけではない

怪我は辛い。
そして今まで通りにできない自分を突きつけられる時間でもあります。

でも、怪我の時間が与えてくれる余白は、使い方次第で育つ時間になります。
反芻思考が出るのは自然なこと。大事なのは、反芻思考に飲まれ続けないことです。

まずはひとつだけでいいです。

感情に名前をつける。
問いをひとつ変える。
小さな成功をひとつ重ねる。

それだけで、未来の自分を助ける準備が始まります。
怪我は、これからの競技人生をさらに良くしていくきっかけになり得る。
そのきっかけを、自分の力に変えていきましょう。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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