自分のことだけを見ていると、苦しくなることがある
チームスポーツを見ていると、自分のためには頑張れても、チームのためにも頑張れる選手は意外と多くありません。
自分の技術を高めたい。
試合に出たい。
評価されたい。
結果を残したい。
それ自体は悪いことではありません。むしろ、向上心のある選手ほど、そうした気持ちは自然に持っています。自分の課題に向き合い、自分を高めようとすることは、競技者として当然大切です。
ただ、そこで視野が自分だけになってしまうと、苦しくなることがあります。
自分がうまくいっているか。
自分が認められているか。
自分が試合に出られるか。
自分が数字を残せるか。
そこだけで競技を見始めると、少しの失敗で気持ちが不安定になりやすくなります。周りのプレーも、自分を助けてくれるかどうかという見方になりやすい。すると、チームの中にいながら、だんだん一人で戦う状態に近づいていきます。
もちろん、競争のある世界では、自分のことを考えるのは当たり前です。自分を高めたいと思うことも、負けたくないと思うことも、競技に本気だからこそ生まれる感情です。
でも、本当に強い選手は少し違います。
自分の成長に真剣でありながら、同時にチームのためにも動ける。
自分の役割を果たすだけでなく、味方が力を発揮しやすくなる関わりもできる。
自分が目立つ場面ではなくても、チームが前に進む選択を取ることができる。
そして不思議なことに、そういう選手ほど、結果的に自分の価値も高まっていきます。
スポーツ心理学では、チームの結束とパフォーマンスには関係があることが示されています。
なかでも、同じ目標に向かってまとまれているチームほど、成果につながりやすいとされています。
チームとのつながりは、個人の力も引き出す
チームのために頑張れる選手というと、自分を後回しにしてでも尽くせる選手のように聞こえるかもしれません。しかし、本質はそこではありません。
大切なのは、自分を消すことではなく、自分の力をチームの中で、どのように活かしていくかが見えていることです。
自分が点を取る。
自分が守る。
自分が走る。
自分が競争に勝つ。
それは全部大切です。
ただ、本当に強い選手は、そこにもう一つ視点を持っています。
この一本で流れを変えよう。
この声で味方を落ち着かせよう。
この切り替えでチームを助けよう。
このプレーで仲間を生かそう。
そう考えられる選手は、同じ能力を持っていても、プレーの意味が変わってきます。努力の意味が、自分の評価だけに閉じなくなるからです。
チームの中で、自分はこのチームの一員だと感じられているかに着目した研究では、その感覚が、支え合いやリーダーシップの土台になることが示されています。さらに、シーズンを通して選手たちの変化を追った研究では、チームを一つにまとめるようなリーダーシップが、選手の一体感を高め、それがチーム全体の機能だけでなく、個人のウェルビーイングや燃え尽きにくさ、個人パフォーマンスにもつながることが報告されています。
つまり、チームとのつながりは、個人を消すものではありません。
むしろ、個人が力を発揮しやすくなる土台になりうる、ということです。
自分のためだけに頑張る選手は、うまくいっている時は良くても、流れが悪くなった時に踏みとどまる理由を失いやすい。努力の意味が、自分の結果にしか向いていないからです。
一方で、チームのためにも頑張れる選手は、自分のプレーにもう一つの意味を持てます。自分の一歩が仲間を助ける。自分の粘りが空気を変える。自分の準備がチームの土台になる。そうやって努力の意味が広がると、人は簡単には折れにくくなります。
チームのために動ける選手が信頼されるのは、単にいい人だからではありません。
チームにとって必要な働きを、自分の意思で引き受けられるからです。
信頼される選手は、苦しい場面で任されます。
任される選手は、経験を積みます。
経験を積む選手は、さらに伸びます。
その積み重ねが、結果的に自分の成長や評価にも返ってきます。
チームのために頑張ることは、自己犠牲ではない
ここで大事なのは、チームのために頑張ることを、自己犠牲と混同しないことです。
チームのために尽くせという話をすると、自分を後回しにして耐えることや、無理をしてでも周りに合わせることを思い浮かべる人がいます。けれど、それは少し違います。
自分を押し殺して、苦しさを飲み込み続けること。
本音を言えず、役割だけを背負い続けること。
無理をして壊れていくこと。
それは健全なチーム貢献ではありません。
自己犠牲が美徳のように語られることがありますが、それが続けば、心も身体もすり減っていきます。表面上はチームに尽くしているように見えても、内側では余裕を失い、プレーの質も判断も落ちていくことがあります。
複数の研究では、選手が自分の考えや感覚を尊重されていると感じられる環境ほど、前向きに競技へ向き合いやすく、燃え尽きにくい傾向が示されています。反対に、強く押さえつけられるような関わりは、苦しさや消耗につながりやすいことも報告されています。自分を消して従うことが、必ずしも良い競技状態をつくるわけではありません。
だから、チームのために頑張れる選手とは、自分を捨てられる選手ではありません。
自分を大切にしながら、自分の力をどこに使えばチームが前に進むかを理解している選手です。
仲間のために走ること。
チームのために我慢すること。
目立たない役割を引き受けること。
それらは、ただ耐えることではなく、自分の意思で意味を引き受けることです。そこに主体性があるかどうかで、同じ行動でも中身は大きく変わります。
自分のためがチームのためになり、チームのためが自分のためになる
スポーツの中では、自分かチームかという二択で考えてしまうことがあります。
自分を優先したらチームに悪い。
チームを優先したら自分が損をする。
でも、本来はそうではありません。
自分を高めた力をチームに還元すること。
チームの中で役割を果たす中で、自分もまた磨かれていくこと。
仲間を生かそうとすることが、自分の価値を深くしていくこと。
このつながりが見えてくると、選手は自分かチームかという二択から抜け出せます。
選手どうしの助け合いや支え合いに注目した研究では、仲間を助ける、励ます、支えるといった行動がチームの中で大切な役割を持つことが示されています。チームのために動くことは、きれいごとではなく、競技の現実の中で価値を持つ行動です。
本当に強い選手は、自分を大切にしています。
だからこそ、チームにも尽くせます。
自分を犠牲にするのではなく、自分の力をより大きな意味の中で使える。
それができる選手は、プレーにも、振る舞いにも、少しずつ深みが出てきます。
自分のためがチームのためになり、チームのためが自分のためになる。
その感覚を持てたとき、選手はただ頑張るだけの段階を越えていきます。
同じ努力でも、そこに宿る意味が変わるからです。
チームスポーツの中で本当に伸びていくのは、自分のことだけを見て頑張れる選手ではなく、自分を高めながら、その力を仲間やチームのためにも使える選手なのだと思います。
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