過去の自分を基準にすると、競技の成長は止まりやすい|指導者の言葉が作る思い込み

スポーツの現場では、指導者の何気ない一言が選手の心に残ることがあります。

「あの頃の方が良かったぞ」
「あの時はもっといいボールを投げていたな」

悪気があって言っているわけではないと思います。
むしろ、励まそうとして言っていることも多いはずです。

過去の良かった姿を思い出して、もう一度その状態に近づいてほしい。
そういう願いから出る言葉なのだと思います。

ただ、その言葉が選手の中にある一つの基準を作ってしまうことがあります。

それは、「あの頃の自分」です。

あの頃のフォーム。
あの頃の感覚。
あの頃のパフォーマンス。

気づけば、今の自分をその過去の自分と比べるようになります。

「あの頃はできていたのに」
「今は全然ダメだ」

そうやって、自分を評価する物差しが、少しずつ過去に置かれていくことがあります。

そして、その状態が続くと、選手はだんだん過去に戻ろうとするようになります。

あの頃の感覚を取り戻そう。
あの頃のフォームに戻そう。
あの頃のようにプレーできるようにならないといけない。

もちろん、過去の良い経験がヒントになることはあります。
過去の成功体験から学ぶこと自体は、決して悪いことではありません。

ただ、それが「戻らなければいけない基準」になってしまうと、少し話が変わってきます。

なぜなら、選手が本来目指しているのは、あの頃の自分ではないからです。

競技者が目指しているのは、
競技人生の中で一番いい状態の自分です。

もっと成長した自分。
もっと可能性を広げた自分。
その先にある目標を達成する自分です。

もし、あの頃の自分がすでに目標を達成している状態なら、その姿を基準にする意味もあるかもしれません。

でも多くの場合、あの頃の自分はまだ途中の状態です。

まだ未完成で、
まだ目標には届いていない段階の自分です。

つまり、その頃の自分に戻ったとしても、そこはゴールではないということです。

それなのに「あの頃に戻ること」が目標になってしまうと、選手は知らないうちに過去の枠の中でプレーするようになります。

過去の自分を超えるのではなく、
過去の自分に近づこうとする。

そうなると、成長の方向が少しずつズレていきます。

本来なら、競技の成長は前に広がっていくものです。

今の自分を土台にして、
少しずつ改善を重ねて、
新しい感覚や新しいプレーを身につけていく。

その積み重ねの先に、これまでより高いレベルのパフォーマンスが生まれていきます。

でも、過去に戻ろうとすると、どうしても意識は後ろを向きやすくなります。

「あの頃はこうだった」
「あの時はできていた」

その思いが強くなるほど、今の自分を否定しやすくなります。

そして、自分のプレーに対しても、少しずつ自信が揺らいでいきます。

「今の自分はダメだ」
「まだ戻れていない」

そんな感覚が続くと、プレーそのものも固くなりやすくなります。

だからこそ大事なのは、今の自分を見ることだと思います。

今の自分はどんな状態なのか。
何が変わってきているのか。
どこが少し良くなっているのか。

そして、ここからどんな改善ができるのか。

競技の成長は、過去に戻ることではなく、
今を少しずつ良くしていくことの積み重ねで生まれていきます。

今日の自分を少し良くする。
その改善をまた次の日に積み重ねる。

そうやって進んでいく中で、気がつけば過去の自分を超えていることがあります。

だからこそ、指導者の関わり方もとても大事になります。

「あの頃の方が良かった」という言葉は、どうしても選手の意識を過去に向けてしまいます。

それよりも、

今の状態はどうなのか。
ここからどんなプレーを目指していくのか。
そのためにどんな改善ができそうなのか。

そういった会話の方が、選手の意識は未来に向きやすくなります。

過去ではなく、
現状と理想の間を見る関わり方です。

そして、選手自身にももう一つ大事なことがあります。

それは、自分の小さな変化に気づくことです。

少しフォームが安定してきた。
判断が少し速くなった。
前より落ち着いてプレーできた。

そういう小さな変化は、外から見ると分かりにくいこともあります。

でも本人にとっては、とても大事な成長です。

その変化に気づけると、
「自分は前に進んでいる」という感覚が生まれます。

その感覚が、また次の改善につながっていきます。

競技人生の中では、良かった時期もあれば、うまくいかない時期もあります。
調子の波は、どんな選手にもあります。

だからこそ、基準を過去に置きすぎないことが大切です。

見るべきなのは、
今の自分です。

今の自分がすべてであり、
ここからどう良くしていくかが、次の成長をつくります。

過去の自分に戻ることではなく、
過去の自分を越えていくこと。

その積み重ねの先に、
気がついたときに目標に届いていた。

そんな競技人生が生まれるのだと思います。

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アスリートの成長を止めてしまう思い込みについては、こちらでも書いています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

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私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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