試合前日の夜、あなたはどんな気持ちで子どもの顔を見ていますか。
うまくいってほしい。
緊張しすぎないでほしい。
練習してきたことを、ちゃんと出しきってほしい。
そんな思いを、心の中で繰り返しながら、でも何と声をかけてあげればいいのか。
実はよくわからないまま、当日の朝を迎えているという親御さんは少なくないのではないでしょうか。
私はこれまで、たくさんの選手と関わってきました。
そしてその中で、あることに気づきました。
試合前にかける「たった一言」が、選手の心をぐっと軽くすることもあれば、知らないうちに重荷を与えてしまうこともある、ということです。
今日は、その「言葉の選び方」についてお伝えしたいと思います。
「自信持ってね」は、励ましのつもりだけれど
試合の朝、玄関先や車の中で、こんな言葉をかけたことはありませんか。
「自信持ってね」
もちろん、悪意なんてどこにもありません。
むしろ、子どものことを思うからこそ出てくる、自然な一言だと思います。
私自身も、最初はそう思っていました。
でも、長年にわたって多くの選手と関わってきた中で、あることに気づいたのです。
実は、言葉をかけられた選手が、こんなことを心の中でつぶやいていることがあります。
「自信がないとダメなのかな」
「自信がなさそうに見えているのかな」
試合前の張り詰めた頭の中で、そんな考えがふわっと浮かんでしまう。
それが、集中力をほんの少し、でも確実に乱すことがあるのです。
言葉の善意と、言葉が生み出す影響は、必ずしも一致しない。
そのことを、まず知っていただけたらと思います。
「頑張れ」も「応援してる」も、受け取り方はさまざま
では「頑張れ」はどうでしょうか。
日本のスポーツ現場でもっともよく聞かれる声かけのひとつです。
でも、これも受け取り方によっては、「まだ頑張りが足りない」という意味に聞こえてしまうことがあります。
毎日練習を積み重ねてきた選手にとって、「頑張れ」は励ましではなく、重荷になりうる言葉なのです。
「応援してるよ」も同じです。
応援されるということは、期待されるということ。
その期待に応えなければという気持ちが、選手の肩にそっとのしかかる。
特に真面目で責任感の強い子どもほど、この感覚を敏感に受け取ります。
「全力を出してきてね」
「練習の成果を信じて」
こういった言葉も、善意から生まれるものです。
でも選手には、それが「条件」のように聞こえることがある。
全力が出せなかったら?
練習の成果が出なかったら?
そんな不安が試合前に頭をよぎってしまうのです。
言葉をかける側に悪意がなくても、受け取る側の心の状態によって、意味はまったく違って届く。
そのことを、思い出していただけたらと思います。
「祈ってる」という言葉の、不思議な軽さ
では、試合前の子どもに何と言えばいいのでしょうか。
私が多くの選手と関わってきた中でたどり着いた言葉が、「祈ってるよ」です。
初めて聞くと、少し地味に感じるかもしれません。
でも、この言葉には他の言葉にはない、ある特徴があります。
「頑張れ」は選手への要求です。
「応援してる」は期待の表明です。
「自信持ってね」は、選手の状態を評価するような響きがあります。
でも「祈ってる」は、違ってきます。
これは、私がこうしたい、という、言った側の自主的な気持ちの表れです。
選手に何かを求めていない。
何かを期待してもいない。
ただ、あなたのことを思って、静かに祈っている。
それだけのことです。
その「求めなさ」が、受け取る側の心を軽くするのだと思います。
「頑張らなきゃ」でも「期待に応えなきゃ」でもなく、「ありがとう」という気持ちが自然と湧いてくる。
それが、集中を乱すのではなく、むしろ心をそっと落ち着かせる力になるのだと思います。
親御さんへ、特に伝えたいこと
子どものスポーツをそばで支えてきたのは、何年もの間、親御さんです。
早朝の送り迎え、遠征費の工面、洗濯や食事の準備。
その積み重ねの中に、「うまくなってほしい」「勝ってほしい」「努力が報われてほしい」という思いが育っていくのは、ごく自然なことだと思います。
ただ、その思いが試合直前に言葉として届くとき、プレッシャーという形に変わってしまうことがある。
子どもは親のことが大好きだからこそ、失望させたくないと思います。
その気持ちが強ければ強いほど、試合前の緊張はふくらんでいく。
だから試合の朝は、結果や努力についての言葉をいったん手放してみませんか。
子どもに何かを求める言葉ではなく、ただそこにいることを認める言葉を。
「行ってらっしゃい」だけでも十分です。
そして心の中で、あるいはそっと声に出して、「祈ってるよ」と添えてみてください。
その言葉は、子どもの耳だけでなく、心の深いところに届くと、思っています。
「自分のことを、ただ思ってくれている人がいる」
その感覚が、いざというときの心の拠り所になるのです。
言葉は、子どもの心の環境をつくる
スポーツの現場では、技術・体力・戦術といった要素に注目が集まりがちです。
でも、トップアスリートたちが口を揃えて言うのは、「メンタルが全てを左右する」ということです。
そしてそのメンタルは、周囲の言葉や雰囲気によって大きく影響を受けます。
試合前にかける言葉は、選手の心理的な環境をつくります。
重荷を与える環境か、安心感を与える環境か。
その違いが、プレーに直結することがある。
指導者もチームメートも、そして親御さんも、自分の言葉が選手の環境の一部であることを、ぜひ意識していただきたいのです。
「祈ってるよ」という言葉は、シンプルです。
でもその中には、「どんな結果であっても、あなたのことが大切」というメッセージが静かに込められています。
心理学に「自己決定理論」という考え方があります。
人は、自分の意志で動いている感覚があるとき、もっとも力を発揮できる、というものです。
「祈ってるよ」は、選手に何も求めない言葉。
だからこそ、子どもが自分の意志で、自分のために試合に向かえる。
その感覚を邪魔しない言葉になるのです。
試合前に子どもへかける言葉を、今一度見直してみてください。
あなたのその一言が、子どもにとっての翼になるか、見えない重荷になるかは、ほんのちょっとした違いにあります。
今回のコラムが、スポーツを頑張る子どもを支える親御さんにとっての気づきになったのなら幸いです。

