試合に「勝つ」ということと「パフォーマンスを発揮する」ことは同じではない

試合に向かうとき、あなたはどんなことを考えていますか。

「自分の力を出し切りたい」「これまでの練習を発揮したい」。
おそらく多くのアスリートが、そのような思いを胸に試合へと臨んでいるのではないかと思います。
パフォーマンスを最大限に発揮すること。
それはアスリートにとって当然の目標であり、競技者としての誠実さの表れでもあると思います。

ただ、私はここで少し立ち止まって考えてみてほしいことがあります。

「パフォーマンスを発揮すること」と「試合に勝つこと」は、実は必ずしも同じではないということです。

「勝利条件」は競技ごとに違う

たとえば競輪を思い浮かべてみてください。
競輪の最終的な勝利条件は、ゴールの瞬間に一着でラインを超えることです。
ではその勝利条件を満たすために、最初のコーナーから全力でペダルを踏み続ける必要があるでしょうか。
答えは当然、ノーです。
位置取り、体力の配分、仕掛けるタイミング。
そういった戦略の積み重ねの上に、最後の一周があります。

あるいは予選と決勝がある競技を考えてみてください。
予選で一位を取ることは、決勝進出という本当の目的のための「手段」に過ぎません。
予選で一着でなくても、決勝に進めればそれでいい。
そう割り切れるかどうかが、長いシーズンを戦い抜く上では大きな意味を持ちます。

「全力を出し切らなければ」という気持ちは、競技者として非常に大切なものです。
ただその気持ちが一辺倒になってしまうと、本来見えていたはずの「この試合で本当に大事なこと」を見落としてしまうことがあります。
試合の種類、対戦相手の状況、シーズン全体の流れ。
そういった文脈の中で、今日の試合における勝利条件は何かを冷静に捉えることが、高いレベルで競い続けるための大切な思考だと私は考えています。

パフォーマンス発揮の意味を否定しているわけではない

誤解してほしくないのですが、私はパフォーマンスを発揮しなくていい、と言いたいわけではありません。

これまで積み重ねてきたことを試合の場で表現しようとする意志は、競技者としての成長を支える大切なエネルギーです。
「今日は自分の力を試したい」という純粋な動機が、練習の密度を上げ、試合での集中力を高め、長期的な成長を加速させることは間違いありません。
パフォーマンスを発揮しようとする姿勢そのものが、あなたをより強いアスリートにしていきます。

ただ、それだけを唯一の基準にしてしまうと、試合後に「出し切れたかどうか」という一点だけで自分を評価するようになってしまいます。
自分のパフォーマンスが思うように出せなかった試合でも、勝利条件をしっかりと満たせていれば、それは十分に「うまくいった試合」であるはずです。
逆に、自分としては最高のパフォーマンスが出せたと思っていても、結果として目指すべき位置に届いていなければ、戦略の見直しが必要かもしれません。

パフォーマンスの発揮と勝利条件の達成、この二つは車の両輪のようなものです。
どちらかだけに偏ってしまうと、走る方向がずれていくことがあります。

ゲーム理論が教えてくれること

ここで少し、ゲーム理論の考え方を借りてみたいと思います。

ゲーム理論にこんな考え方があります。
相手の出方や状況がどう変わっても、自分にとって常に有効な選択肢が一つあるとき、それを選び続けることが最も合理的な戦略だという考え方です。
「勝利条件を把握した上で戦略を取る」というアプローチは、まさにそれにあたります。

試合においても同じです。
相手の調子がよくても悪くても、自分のコンディションが万全でも少し落ちていても、「勝利条件を把握した上で戦略を取る」というアプローチは常に有効です。
体の調子は毎日変わります。
メンタルの状態も一定ではありません。
しかし、「今日この試合で何を達成すべきか」という問いに対する明確な答えを持っていれば、どんな状況でも判断の軸が明確になります。

これが、勝利条件を理解することの本質的な価値だと私は思っています。

「勝てるかもしれない」という余裕が生まれるとき

以前、日本のトップレベルで戦う競輪選手をサポートしたことがあります。
その選手は常に一位を目指して練習を積んできた、真っ直ぐな競技者でした。
だからこそ、試合でも一位以外は意味がないという意識が染み付いていて、レース中もひたすら「どうすれば一位になれるか」だけを考えていました。

その選手とのメンタルコーチングで、ひとつのことがはっきりしてきました。
自分が本当に望んでいるのは、決勝まで勝ち進んで優勝することだ、と。
その言葉が出てきた瞬間から、予選に対する見方が変わりました。
予選で一位を取ることへの執着が、少しずつほどけていったのです。
レース展開の中で無理に前に出なくていい場面が見えてくるようになり、体力と判断を本当に必要な局面のために取っておけるようになりました。
結果として、その選手は決勝まで進み、優勝を手にしました。

自分の調子が少し落ちているとき、「今日は本調子じゃない」という感覚は、大きな不安になりがちです。
「パフォーマンスを発揮できなければ勝てない」という思い込みがあると、コンディションの揺らぎがそのまま精神的な不安定さにつながってしまいます。

でも、「今日の勝利条件は何か」を明確に持っていると、少し違う景色が見えてきます。
「今日の自分のコンディションで、この条件を満たすためにはどう動けばいいか」という思考に切り替わるからです。

完璧でなくても、勝てることがある。
その感覚が生まれると、試合前の緊張感の質が変わります。
不安ではなく、準備としての緊張感。
それは本番でのパフォーマンスにも、確実に良い影響を与えます。

競技者としての価値を高めていくために

少し視野を広げて考えてみましょう。

もしあなたの目的が「自分の最高のパフォーマンスを表現すること」であれば、勝利条件よりもパフォーマンスそのものに集中することが正解の場合もあります。
それはそれで、ひとつの競技との向き合い方です。

ただ、アスリートとしての価値を高めていく、つまり競技の世界での存在感や実績を積み上げていくという視点で考えるならば、試合での結果や試合に出続けることの重要性は無視できません。
結果が積み重なることでチャンスが広がり、チャンスが広がることでさらなる成長の機会が生まれます。

そのためにも、一試合ごとに「この試合の勝利条件は何か」を問い続けることは、長く競技を続けていくための大切な習慣になると思っています。

最後に

勝利条件を理解することは、あなたのこれまで積み重ねてきたことを否定するものではありません。
むしろその積み重ねを、より正しい場所で発揮するための考え方です。

それを試合で発揮したいという気持ちも、競技者として当然の感覚です。
ただその気持ちに加えて、「この試合で何を成し遂げることが、自分の競技人生につながるのか」を問い続けてほしいのです。

パフォーマンスを発揮することと、勝利条件を満たすこと。
その両方を意識できるようになったとき、競技生活はもう少し自由になると思っています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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