試合の前日。
準備しているはずなのに、不安が増えていく。確認すればするほど、心が落ち着かなくなっていく。
この現象は、メンタルが弱いから起きているわけではありません。むしろ競技に真剣な人ほど起きやすい。
前日は、脳と身体の両方にとって、不安が起きやすい条件が揃う日だからです。
大事なのは、不安をなくすことではありません。
不安があっても、当日の判断が乱れない状態を作ること。
そのための準備として、前日にできるひとつの選択肢が「揃える」です。
今日は、試合前日に不安が増える理由を整理しながら、整えるつもりで逆に乱れやすい行動を3つ。そして、代わりにできる揃え方を手順でまとめます。
前日に不安が増えやすいのは、自然なこと
前日になると、不安が増えやすい理由は大きく3つあります。
1つ目は、不確実性が増えるから。
相手の出方、試合展開、当日の感覚、勝敗。どれも確定できません。脳は、決めきれない状態を嫌います。その結果、試合前日は警戒モードに入りやすい。
2つ目は、安心を求める行動が増えるから。
不安が出ると、人は自然と確認したくなります。情報を集めたくなります。もう一回を練習したくなります。短期的には安心できる。でも、それが続くと「不安は確認しないと危ない」という学習になりやすい。すると、次の不安がまた現れてきます。
3つ目は、身体のサインが大きく感じられるから。
前日は小さな違和感でも気になりやすい。睡眠が浅くなる、疲労が抜けきらない、身体が重い。そうしたサインは、脳にとって強い情報です。身体が気になるほど、心は不安に引っ張られやすい。
つまり前日は、何もしなくても不安が増えやすい日。
ここを理解できるだけで、前日の自分との向き合い方が変わります。
その上で、前日の準備をどう考えるか。
私が現場でよく見てきたのは、前日は「上げる」よりも「揃える」に寄せた方が、当日のパフォーマンスが安定しやすいということです。
揃えるとは、気持ちを整えることでも、緊張を消すことでもありません。
身体と判断のブレ幅を小さくすること。迷った時に戻れる軸を作っておくこと。
その結果として、落ち着きが戻ってくる。そんな順番です。
整えるつもりで乱れる3つの行動
ここから、試合前日にやりがちな逆効果を3つ。
どれも意図は正しい。だからこそ、気づかないうちにハマりやすいです。
1. 確認のつもりで、答え合わせを続ける
映像を見返す。感覚を思い出す。戦術を再確認する。
必要なことです。
ただ前日は、確認がいつの間にか「安心探し」になりやすい。
安心を探している時、脳は足りないところを見つけるのが上手くなります。
良いシーンより、ミスが気になる。
できていることより、できていないことが目につく。
それは自然な働きです。不安がある状態では、危険を見つけたくなるためです。
結果として、確認すればするほど不安が増える。
前日によく起きます。
代わりに:確認は量ではなく枠で管理する
前日の確認は、安心を作るためではなく、当日の判断を迷わせないためにやります。
だから、量ではなく枠で決めます。
- 確認は15分だけ
- テーマは1つだけ
- 最後に結論を1行だけ書く
結論の例
最初の5分は簡単にプレーをする
迷ったらシンプルに選ぶ
まず声を出してリズムを作る
気持ちが落ち着かないときは呼吸をゆっくり行う
この1行が、当日の自分の軸になります。
前日に必要なのは、安心感より判断基準です。
2. 調子を上げようとして、強度を上げる
前日に強い刺激を入れると、気持ちは上がります。
手応えも出やすい。
でも前日は、上げ方を間違えると崩れやすい日でもあります。
強度を上げると、疲労が残るだけでなく、睡眠が浅くなったり、身体の張りが強くなったりもする。すると当日、違和感が出やすくなります。
そして身体の違和感は、不安を一気に強めます。
脳は身体の情報を優先しやすい。だから、少しのズレでも気持ちが持っていかれる。
さらに、前日に上げすぎると、当日に力みやすい。
力むと視野が狭くなり、判断が硬くなります。判断が硬くなると、さらに不安が増える。これもよくある流れです。
代わりに:前日は上げるではなく揃える
前日の目的は、調子を作り込むことではありません。
当日、同じ感じで出せる状態を作ることです。
- 強度より、精度とリズム
- できた感より、同じ動きが出る感覚
- 最後は軽い成功で終える
前日こそ揃えにいく。
それが当日の安定につながります。
3. 安心のために、情報を集めすぎる
前日ほど、情報が欲しくなります。
相手の映像、対策、SNS、誰かの調整法、ルーティン。
でも情報が増えるほど、比較が増えます。
比較が増えるほど、頭の中は情報で重くなります。
考えることが増えると、判断は遅れます。
判断が遅れると、プレーは小さくなります。
小さくなったプレーは、また不安を呼びます。
情報を集めているのに、自由が減っていく。
これも前日に起きやすい罠です。
代わりに:情報は1つに絞って、減らす
前日は増やす日ではなく、減らす日。
迷いの種を減らします。
- 参考にする情報は1つだけ
- 新しい方法は入れない
- いつもの中から、やることを1つ減らす
整えるとは、足すことではありません。
迷いの原因となるものを減らすことです。
前日は、心を落ち着かせるより判断を揃える
ここまでの話をまとめると、前日の準備はこう言い換えられます。
不安を消しにいくと、確認や情報収集が増える。
増えるほど、足りないが目につく。
足りないが増えるほど、不安はまた増える。
だから前日は、不安を消す方向ではなく、判断を揃える方向へ。
心が揺れ動いても迷わない軸を作る。
その方が、当日のパフォーマンスは安定しやすい。
最後に、前日の締めとして、2行だけ書いてみてください。
ルーティンではなく、当日に向けての準備です。
明日の自分が最初に守ること
迷ったら戻る場所
例
最初の5分は簡単にプレーをする
深呼吸を一つして、目線を上げる
この2行があると、迷いが減り、判断が速くなります。
判断が速くなると、結果として落ち着きが戻ってきます。
落ち着きを作るのではなく、判断を整えた結果として落ち着く。
前日の準備は、その順番がいちばん再現性が高いと感じています。
不安がある前日でも、できることはあります。
前日の準備を、揃えることから考えてみる。
それは、試合当日の安定感をつくる一つの選択肢です。

