うまくいかないときほど、過去の成功に縛られる|成功体験の誤学習について

うまくいかないとき、人は過去にうまくいった方法にすがりたくなります。

前に結果が出たやり方。
手応えを感じた準備。
流れを変えられた言葉。
あのとき自分を助けてくれた感覚。

苦しいときほど、そこに戻れば何とかなる気がしてきます。
それは弱さではなく、とても自然なことだと思います。
人は不安なとき、知らない答えより、知っている答えに安心を求めるからです。

でも、ここにひとつ落とし穴があります。

過去にうまくいった方法が、今もうまくいくとは限らないということです。
むしろ、うまくいかなくなっているのに、そのやり方を手放せずに繰り返してしまうことがあります。
そしてその繰り返しが、自分をさらに苦しくさせてしまいます。
つまり、本来は支えになるはずの成功体験が、逆に自分を動きにくくしてしまうのです。

こうした状態は、成功体験の誤学習と呼ぶこともできます。

成功体験そのものが悪いわけではありません。
問題なのは、ある条件の中で機能したやり方を、いつでもどこでも通用する正解のように持ち続けてしまうことです。

本当は、うまくいった背景にはいろいろな要素があります。
その日の心身の状態、相手との相性、周囲の環境、タイミング、自分の成熟度。
そうした複数の条件が重なって、結果としてうまくいったのかもしれません。

でも人は、うまくいった出来事をできるだけ分かりやすく理解したくなります。
だから、「このやり方が正しかった」「自分はこうすれば結果が出る」と、少し単純化して学習してしまう。
それ自体は自然なことです。
ただ、その学習が強くなりすぎると、現実が変わっているのに、自分の中の正解だけが更新されなくなってしまいます。

たとえば競技でも、こういうことがあります。

以前うまくいったルーティンに戻ろうとする。
前に感覚が良かったフォームを必死に再現しようとする。
結果が出ていた頃と同じ考え方を、今の自分にも当てはめようとする。

でも、なぜかうまくいかない。
感覚が戻らない。
流れが変わらない。
焦りだけが増えていく。

それでも、「前はこれでいけたはずだ」と思って、さらに同じやり方を繰り返してしまう。
うまくいっていないやり方だと気づけないまま、もっと精度を上げれば何とかなるのではないかと考えてしまう。
でも実際には、その繰り返しが自分をますます動けなくさせることがあるのです。

これは、知恵の輪に少し似ています。

外れないときほど、人は同じ動かし方を繰り返してしまいます。
今までの感覚に戻そうとする。
うまくいっていたときのやり方を、もう一度なぞろうとする。
でも、うまくいかないときほど、その繰り返しが自分を余計に苦しくさせることがあります。

知恵の輪も、外れないからといって、同じ方向に動かし続ければ外れるわけではありません。
むしろ、そのやり方にこだわるほど、ますます抜けなくなることがあります。
だから必要なのは、もっと頑張って同じことをすることではなく、一度立ち止まって、違う角度から見直すことです。

大切なのは、過去にうまくいったやり方に執着することではなく、今の自分と今の状況を見直すことなのだと思います。

うまくいっていたときと、今とでは、前提条件が変わっています。
体の状態も違う。
立場も違う。
周囲から求められる役割も違う。
経験も変わっているし、見えている景色も変わっている。
相手も変わるし、環境も変わるし、自分の中にある課題も変わっていきます。

それなのに、「前にこれでうまくいったから」という理由だけで同じやり方を続けていると、今の現実と自分の行動が少しずつズレていきます。
そしてそのズレが、苦しさや停滞感として現れてくるのだと思います。

だから、苦しいときに必要なのは、過去の成功をなぞることではありません。
今の自分には、今の自分に合う向き合い方があるかもしれないと考えることです。

今の自分に必要な整え方は何だろう。
今の状況だからこそ見直すべきものは何だろう。
前と同じ答えではなく、今の自分に合う答えは何だろう。

こうした問いに変わったとき、思考の枠は少し広がります。

ただ、ここが難しいところでもあります。
自分の思考の枠は、自分にとっては当たり前だからです。
自分が何に縛られているのか。
どんな前提で物事を見ているのか。
それは案外、自分一人では気づけません。

でもそれは、気づけない自分がダメなのではなく、むしろ普通のことだと思います。
人は、自分が見ている世界を世界そのものだと思いやすい。
だからこそ、思考の枠は外からの視点によって広がることがあります。

信頼できる誰かと話すこと。
言葉にしてみること。
違う視点をもらうこと。
それによって初めて、「自分はここにこだわっていたのか」「ずっと同じ方向から解こうとしていたのか」と気づけることがあります。

すると、問題が消えるわけではなくても、問題の見え方が変わります。
見え方が変わると、選べる行動も変わってきます。
前と同じようにできなくてもいいのかもしれない。
今の自分に合うやり方を探していいのかもしれない。
そう思えたとき、人は少しずつ前に進めるのだと思います。

過去の成功体験は、大事にしていい。
それは確かに、自分が歩いてきた道の一部です。
でも、それに縛られなくていい。
あのときの成功は、あのときの条件の中で生まれた一つの答えだった。
今の自分には、また別の答えが必要かもしれない。
そう考えられることが、成長なのだと思います。

うまくいかないときほど、人は過去に戻りたくなります。
でも本当に必要なのは、戻ることではなく、見直すことなのかもしれません。

自分はいま、過去の成功に助けられているだろうか。
それとも、過去の成功に縛られているだろうか。

もし縛られているのだとしたら、必要なのは、同じことをもっと頑張ることではありません。
一度立ち止まって、違う角度から今を見てみることです。
思考の枠を少し広げてみることです。

うまくいかないやり方を繰り返すことと、諦めずに向き合うことは、同じではありません。
本当の意味で向き合うとは、今の現実に合わせて、自分の見方ややり方を更新していくことなのだと思います。

苦しいときこそ、過去の正解にしがみつくのではなく、今の自分に問い直したい。
その柔らかさが、次の突破口をつくっていくのだと思います。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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