アスリートと話していると、こんな言葉を聞くことがあります。
「試合前になると、気持ちが落ちてしまうんです。」
「うまくいかない時期が続くと、自分が弱いんじゃないかと思ってしまって。」
「頑張らなきゃとわかってるのに、体が動かない日があって。」
その言葉を聞くたびに、私はこう思います。
この選手は、まだ強さに気づいていないだけだなと。
気持ちが沈んでいることを、ちゃんと自覚できている。
そしてそれを言葉にできている。
それだけで、すでに向き合っている証拠だからです。
そう感じる理由を、今回は書いていきたいと思います。
気持ちが沈む瞬間だけを切り取ると、何が起きるか
試合で結果が出なかった日。
練習がどうも噛み合わない週。
自分の限界を感じて、もうダメかもしれないと思った夜。
そういう瞬間だけを切り取れば、自分が弱く見えることがあります。
「また沈んでしまった。自分はなんて弱いんだろう。」
その感覚は自然だと思います。
でも、人の強さはその「一点」では測れません。
大切なのは、時間軸を広げたときに何が見えるか、です。
沈んだ後に、どうしているか。
コーチングの中でアスリートと向き合っていると、気持ちが落ちること自体は、ほぼ全ての選手に起きています。
結果を出している選手も、安定しているように見える選手も、みんな沈むことがある。
それは競技に本気で向き合っている人間であれば、避けられないことだと感じています。
むしろ、まったく気持ちが沈まないという選手のほうが、どこかで無理をしていることが多い。
では、強い選手とそうでない選手の違いはどこにあるのか。
それは、沈んだときに「やめてしまうかどうか」だと思っています。
本当に弱い人は、立ち直れずにやめていく
多くのアスリートをサポートしてきて、ひとつ感じていることがあります。
本当に弱い人は、気持ちが沈んだとき、そのまま立ち上がれなくなります。
競技をやめてしまう。
向き合うことをやめてしまう。
沈んだまま、そこに留まり続ける。
逆に言えば、沈みながらもまた動き出している選手は、それだけで十分に強い。
「やめようかな」と思いながらも、やめていない。
翌日また練習着を着ている。
またグラウンドに立っている。
それは弱さではなく、弱さの中で踏みとどまった強さです。
自分では気づきにくいことですが、それを外から見ていると、はっきりわかります。
沈んでは立ち上がり、また沈んでは立ち上がる。
その繰り返しを続けてきた選手は、どこかで必ず自分の強さに気づく瞬間が来ます。
沈む時間は、次に立ち上がるための準備
気持ちが落ちている時間を、「ただの停滞」と捉える選手は多い。
でも、私はそう思っていません。
沈んでいる時間の中で、選手は自分と正直に向き合っています。
何がうまくいかなかったのか。
何が足りないのか。
どこを変えなければならないのか。
言葉になっていなくても、心と体はその問いを静かに処理している。
だから、沈むことは弱さの証拠ではなく、立ち上がるための内側の作業だと思っています。
表に見えていないだけで、その時間は無駄ではない。
もちろん、沈んでいるときはそんなふうには感じられません。
ただ苦しいだけだし、早くここから抜け出したいとしか思えない。
それで構わないと思います。
焦らなくていいし、すぐに立ち直らなければという必要もない。
人によって、立ち上がるのに必要な時間は違います。
一日で切り替えられる選手もいれば、一週間かかる選手もいる。
その速さは関係ない。
大切なのは、時間をかけてでもまた動き出せるかどうかです。
ただ、ひとつだけ覚えておいてほしいことがあります。
あなたはこれまで、毎回ちゃんと立ち上がってきた、ということです。
感情が揺れるということは、まだ諦めていないということ
メンタルコーチングの中でよく見る場面があります。
試合後、結果が出なかった選手が、深く落ち込んでいる。うまくいかない自分を責めている。
そういう選手を見ると、私はむしろ可能性を感じます。
感情が揺れているということは、まだ本気で向き合っているということだからです。
競技を、仲間を、自分の目標を、大切にしているからこそ、気持ちが動く。
どうでもよくなった瞬間、人は何も感じなくなります。
無関心になったとき、人はそっと離れていきます。
何も感じなくなったとき、人はそっとやめていきます。
揺れているということは、それだけまだ戦っているということです。
気持ちが沈むことを弱さだと思っている選手に、私はこう伝えることがあります。
「あなたはいつも、そこから立ち上がってきましたよね。」
その言葉に、少し表情が変わる選手が多い。
弱いから沈んでいたのではなく、本気だったから沈んでいたのだと、そのとき初めて気づく。
自分の強さに、気づいていないだけなのだと思います。
強さとは、転ばないことではない
強さというのは、気持ちが沈まないことではありません。
沈んだとき、また起き上がれることです。
その繰り返しこそが、選手としてのキャリアを作っていきます。
一度の結果や、一時の気持ちの落ち込みで、その人の強さは決まらない。
沈んでは立ち上がり、また沈んでは立ち上がる。
これがアスリートにとってのレジリエンスであり、誰にも奪えない強さだと思っています。
思い返してみてほしいのですが、これまでの競技生活の中で、気持ちが沈んだことは一度や二度ではないはずです。
もうやめようかと思った夜も、あったかもしれない。
それでも今、ここにいる。
それが答えだと思います。
今、気持ちが沈んでいるなら。
それは弱いからではありません。
それはあなたが、まだ本気で戦っているからです。
気持ちが沈むことは、弱さではない。
沈んでもまた立ち上がれる。
それがその選手の強さだと、私はそう思っています。

