小さな変化を大切にしてほしい|成長は見えないところに宿る

競技レベルが上がるにつれて、ある悩みを抱えるアスリートが増えてきます。

「最近、自分が成長しているのかどうか、よくわからなくなってきた。」

この言葉を、私はこれまで数えきれないほど聞いてきました。
プロを目指して毎日必死に練習している選手、プロの世界で結果を求めながら競技と向き合っている選手、そういった真剣なアスリートほど、この感覚に苦しむことが多いように思います。

競技を始めたころの成長

はじめて競技に触れたとき、成長の実感はどこにでも転がっていたはずです。

「昨日できなかった技術が、今日できるようになった。」
「先週より、タイムが縮まった。」
「あの選手に、少し近づけた気がする。」

毎日のように何かを感じられて、練習が楽しくて仕方なかった時期があったと思います。
競技の喜びが、日常のあちこちに溢れていた時期です。

でも、レベルが上がるにつれて、そういった目に見える成長は少しずつ感じられなくなっていきます。
これは当然のことで、むしろレベルが上がっている証拠でもあるのですが、感覚としてはそう割り切れないのが正直なところではないでしょうか。

毎日懸命に練習しているのに、何かが変わった実感がない。
目標に向かって前に進めているのかどうか、自分でも確信が持てない。
そういった状態が続くと、競技そのものが少しずつ苦しくなっていきます。

熟練するほど、成長は「見えにくく」なる

これは、スポーツの世界に限った話ではありません。
どんな分野でも、初心者のうちは成長曲線が急勾配で、変化がわかりやすい。
でも熟練していくにつれて、成長は目に見えにくく、細かいところに宿るようになっていきます。

つまり、アスリートとしてのレベルが高くなれば、成長の粒度が変わるということです。
昨日と今日で「できること」が劇的に変わるような成長は少なくなり、代わりに微細な感覚の変化、わずかな精度の向上、ほんの少しの判断の改善、そういったところに成長が積み重なっていきます。

問題は、私たちの「成功の基準」や「成長の基準」がなかなかそこについていかないことです。

競技レベルが上がるにつれて、知らず知らずのうちに、自分自身に求めるハードルも上がっていきます。
「これくらいできて当たり前」「このくらいじゃまだ足りない」という感覚が染みついていって、ちょっとした変化では自分を認められなくなっていく。
結果として、毎日頑張っているのに、自分を満たすことができない状態に陥ってしまうのです。

あえて基準を下げてみる

ここで私がお伝えしたいのは、「成功の基準」「成長の基準」を、意識的に下げてみてほしいということです。

これは、手を抜くとか、目標を低くするということではありません。
目指す頂上は変えなくていい。
ただ、日々の小さな一歩を「前進」として認めてあげてほしいのです。

実はこの話は、感覚論の話だけではありません。
ハーバード大学の研究チームが数万件におよぶ記録を分析した結果、「たとえ小さくても、前進を感じた日はそうでない日に比べて、モチベーションや充実感が明確に高かった」という結果が出ています。
大きな成果でなくても、小さな前進を認識するだけで、人の気持ちはちゃんと動くということです。

現在サポートしているある選手も、まさにこの状態に陥っていました。
ある競技の日本代表という実力を持ちながら、「最近、練習していても何も得られている気がしない」と話してくれたのです。
一緒に振り返ってみると、その週だけでも「プレッシャーのかかる場面で、以前より冷静に判断できた」「苦手な練習メニューを最後まで逃げずにやり切った」など、小さな前進がいくつも見つかりました。
「言われてみれば、確かにそうですね」と、その選手は少し表情が柔らかくなっていました。
気づけていなかっただけで、前進はちゃんとそこにあったのです。

今日の練習で、昨日より少しだけ体の使い方が自然になった気がした。
ここ数日、集中が途切れにくくなってきた。
試合のあの場面で、以前なら焦っていたところを、少し落ち着いて対処できた。
それらは、すべて立派な成長です。

こういった小さな変化に気づく習慣を持てているアスリートは、強いなと感じます。
なぜなら、日々の積み重ねをちゃんと前進するための力に変えられているからです。
自分が前に進んでいるという実感が、次の一歩を踏み出す力になります。

小さな成功を見つける「目」を育てる

では、具体的にどうすればいいか。
私がよくお勧めしているのは、練習後や一日の終わりに、「今日の小さな成功」を一つだけ見つける習慣を持つことです。

どんなに小さくてもいい。
「今日は練習中に一度も言い訳しなかった」「あの技術に少しだけ手応えを感じた」「しんどかったけど、最後までやり切れた」、そういったものでいいのです。

最初は難しく感じるかもしれません。
「こんな小さなことで自分を褒めていいのか」と感じるアスリートも多いです。
しかし、スタンフォード大学の研究でも示されているように、「自分の能力は積み重ねによって伸びていく」と感じられている選手ほど、困難な局面でも折れずに成長し続けられることがわかっています。
小さな成功を積み重ねる習慣は、まさにその感覚を育てることにつながっているのです。

続けていくうちに、日常の中に成長の気配を見つける「目」が育っていきます。
その目が育った選手は、競技との向き合い方が変わっていきます。
苦しい時期も、停滞を感じる時期も、「今は見えにくいだけで、自分はちゃんと積み上げている」という感覚を持ちながら、前に進み続けることができるようになります。

競技人生を、豊かにしてほしい

大きな成功や目に見える成長だけを「本物」と感じていると、競技人生のほとんどの時間が「まだ足りない」という感覚で埋まってしまいます。
それは、本当に苦しい競技人生です。

でも、小さな変化の中に価値を見つけられるようになると、同じ日常がまったく違って見えてきます。
毎日の練習が、確かな積み重ねとして感じられるようになります。
そして、その積み重ねが自信になり、いざという場面での強さにつながっていくのです。

どうか、自分自身に厳しくなりすぎないでください。
真剣に競技と向き合っているからこそ、自分への要求が高くなるのはわかります。
しかし、その厳しさが自分を追い詰めるだけになってしまっては、本末転倒です。
高い目標を持ちながらも、今日の小さな成功や成長を認めてあげる。
その両方を持てるアスリートが、長く、強く、競技と向き合い続けられると私は信じています。

あなたが今日感じた「小さな何か」は、決して小さくなんかありません。
それは、あなたが前に進んでいる証そのものです。

ぜひ、その小さな変化を大切にしながら、競技と向き合い続けてください。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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