1人で乗り越えなくていい|みんなで乗り越える経験がアスリートを支える強さになる

「また、1人で乗り切れなかった」

調子が上がらない時期、思うような結果が出せない時期、スランプが続く日々の中で、ふとそんな言葉が頭をよぎることはないでしょうか。

誰かに話を聞いてもらった。
コーチに相談してしまった。
チームメートに支えてもらった。
トレーナーに気持ちを吐き出してしまった。
そのこと自体に、どこか申し訳なさや情けなさを感じてしまう。
「自分がもっとしっかりしていれば、こんなことを人に頼まなくてよかったのに」と、支えてもらった後でも、どこかすっきりしない感覚が残る。

責任感が強く、自分に厳しく競技に向き合っているアスリートほど、そういった感覚に陥りやすいように思います。
弱みを見せることへの抵抗、人に迷惑をかけることへの遠慮、「プロなんだから自分でなんとかしなければ」というプライド。
それはある種、真剣に競技と向き合っているからこそ生まれる感情でもあります。

でも、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。

本当に、1人で乗り越える必要があるのでしょうか。

「1人で乗り越える」という感覚の正体

多くのアスリートと関わる中で、気になることがあります。
「強いアスリートは1人で全てを解決できる」という感覚を、どこかで持っているアスリートが少なくないということです。

確かに競技の本番は、自分1人がコートや競技場に立ちます。
試合中にコーチが代わりに走ってくれるわけではないし、仲間が痛みを肩代わりしてくれるわけでもない。
個人競技であれば、なおさらその孤独感は強くなるかもしれません。

しかし一度少し考えてみてください。
これまでの競技生活の中で、あなたは本当に1人だったでしょうか。

ケアをしてくれたトレーナー。
技術を磨いてくれたコーチ。
練習の相手をしてくれたチームメート。
遠征に送り出してくれた家族。
試合に来てくれたファンの方。
スケジュールを調整し、道具を整え、栄養を考えてくれた人たち。
そのすべての人がいなければ、今のあなたはどうなっていたでしょうか。

競技の「本番」だけを切り取れば1人かもしれませんが、競技生活そのものは、誰かとともにあります。
そう考えると、困難な時期に誰かを頼ることは、弱さとは少し違うところにある気がしてなりません。

頼ることへの抵抗、その奥にあるもの

「人に相談することが得意ではない」というアスリートに話を聞くと、その背景はさまざまです。
「相手に負担をかけたくない」という遠慮だったり、「弱いと思われたくない」というプライドだったり、あるいは「相談しても結局は自分が変わらないと意味がない」という、ある種の誠実さだったりする。

どれも、真面目で、誠実な思いから来るものだと思います。
否定したいわけではありません。
ただ、少し視点を変えてみてほしいのです。

逆の立場で考えてみてください。
あなたのトレーナーは、あなたの体のことを一緒に考えたいと思っています。
コーチは、あなたのパフォーマンスを底上げするために日々関わっています。
チームメートは、あなたとともに成長したいと思っている。
あなたのことを応援している人たちは、あなたが壁にぶつかった時に「何かできることはないか」と思っているかもしれません。

相談することは、相手の役割を奪うことではなく、むしろその役割を一緒に発揮させることでもある。
私はそんなふうに感じています。
あなたが頼ることで、関わる人たちも「一緒にやっている」という実感を持てる。
それは、周りとの関係をより豊かにすることにもつながっていくように思います。

「誰かのために」が、本番の力になる

ここで、少し興味深い研究の話をさせてください。

組織心理学者のアダム・グラントは、「誰かの役に立ちたい」という動機(プロソーシャル・モチベーション)が、粘り強さやパフォーマンスにどう影響するかを調べました。
消防士と募金活動スタッフを対象にした2つのフィールド研究では、「自分のため」だけでなく「誰かのために」という動機が加わった時、粘り強さとパフォーマンスの両方が有意に高まることが示されています。(Grant, 2008, Journal of Applied Psychology

特に注目したいのは、自分がやりたいという内発的な動機と、他者への貢献動機が組み合わさった時に、最もパフォーマンスが高くなるという点です。
「自分がやりたい」という気持ちの上に「誰かのためになる」という感覚が重なった時、人はより力を発揮しやすくなる。

スポーツの現場でも、似た経験を話してくれるアスリートに出会うことがあります。

「応援してくれている人たちへの感謝を感じながらプレーしていた」
「家族に良い姿を見せたくて、最後まで力が出た」
「チームのために、という思いが追い込まれた場面で自分を動かした」

自分1人のためだけに戦う時よりも、誰かとつながりを感じながら戦う時の方が、不思議と力が出た、という感覚。
あなた自身も、どこかで覚えがあるかもしれません。
そしてその「誰かとのつながり」は、困難な時期を一緒に過ごした人たちとの間にこそ、深く育まれていくように感じます。

大事な試合で浮かぶあの姿

競技生活の中で、本当に大切な一戦というものがあります。
人生の分岐点になるような試合、長い間目標にしてきた舞台、絶対に負けられない場面。
そういった局面で、「脳裏に人の顔が浮かんだ」という経験を話してくれるアスリートに出会うことがあります。

練習を黙って見守ってくれたコーチの顔。
遠征のたびに荷物を持って駅まで送ってくれた親の姿。
調子が落ちた時に「気にするな」と声をかけてくれたチームメートの言葉。
ケガで休んでいた時に「焦らなくていい」と言ってくれたトレーナーの表情。
つまり、これまで自分自身を支えてくれた人たちの姿です。

困難な時期を一緒に過ごした人たち、壁にぶつかった時そばにいてくれた人たちとの時間が、いざという本番で言葉にならないエネルギーとして湧き上がってくる。
そんな経験を、私はこれまで何人ものアスリートから聞いてきました。

「自分1人のために」では届かないところへ、「あの人のために」が連れて行ってくれることがある。
だからこそ、困難な時期に誰かを頼ることは、未来の本番のための「蓄え」にもなりえます。
苦しい時間を一緒に過ごした人の顔は、本番でより鮮明に浮かんでくるものです。

受け入れられない自分のまま話してみていい

それでも「こんな自分を誰かにさらけ出せない」と感じる時があるかもしれません。
うまくいかない自分、弱さを抱えた自分を、そもそも自分自身が受け入れられていないから、人にも頼れない。
そういった状態になることもあると思います。

そんな時、完全に「受け入れた状態」になってから人に頼る必要はありません。
受け入れられていない自分のまま、話してみていい。
整理できていない気持ちのまま、吐き出してみていい。

人に頼ることは、自分を完璧にしてからするものではありません。
今のうまくいっていない自分のまま、一緒に考えてもらうことが、次に進むためのきっかけになると思っています。

1人で乗り越えなくていい

もし今、うまくいかない時期の中にいるとしたら、こんなふうに考えてみてもらえたらと思います。

「1人で乗り越えられなかった」ではなく、「一緒に乗り越えてもらっている」と。

人に頼ることができるアスリートは、人に感謝できるアスリートでもあります。
そして人への感謝を持てるアスリートは、大舞台で「誰かのために」という動機を自然に持つことができる。
そういう選手を、私はこれまで何人も見てきました。

1人で全てを背負わなくていい。
あなたの周りには、一緒に乗り越えようとしてくれる人たちがいます。
その関係性こそが、いつかあなたにとって、かけがえのない力になっていくと思っています。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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