無意識に使っているその言葉が、パフォーマンスに影響を与えている

何かが起きたとき、あなたはどんな言葉で自分の感情を表現していますか。

「怖いな」「辛いな」「苦しいな」「楽しいな」「嬉しいな」。
そういった言葉で、自分の内側にある感情に名前をつけることは、誰もが日常的にやっていることです。
特別なことではありません。

しかし、その「当たり前にやっていること」が、実はあなたのパフォーマンスに深く関係しているとしたら、どうでしょうか。

今日は、言葉と感情の関係について、競技に取り組むアスリートの視点からお伝えしたいと思います。

言葉は思っている以上に体に届いている

ここで少し想像してみてください。

レモンを、思い浮かべてみてください。
黄色くて、すっぱくて、あの独特の香りがするレモンを。
切った断面から果汁がにじんでいる、あのレモンを。

口の横あたりが、じわっとしてきませんでしたか。
唾液が少し出てきた感覚はなかったでしょうか。

これは、あなたが「唾液を出そう」と意識して出したわけではありません。
「レモン」という言葉、あるいはその映像を思い浮かべただけで、体が自動的に反応してしまったのです。

言葉というものは、これほどまでに、体への影響力を持っています。
頭の中で思い浮かべるだけで、体が無意識に動き始める。
意識していないのに、体はもうそこに反応している。
これは脳と言語の仕組みとして、誰にでも起きることです。

そして、この仕組みは、競技の場でもまったく同じように働いています。

「怖い」と思った瞬間に何が起きているか

試合前、大事な場面、プレッシャーのかかる状況。
そういうときに「怖いな」と感じることは、決して珍しいことではありません。
むしろ、本気で競技に向き合っているからこそ、感じてしまうものでもあります。

ただ、「怖い」という言葉を自分の感情に貼り付けた瞬間、脳の中では何かが動き始めます。

その状況のすべてが、「怖いもの」として処理され始めるのです。
音も、相手の動きも、自分の体の感覚も、すべてが「怖い」というフィルター越しに見えていく。
「あの選手、怖いな」と思った瞬間から、その選手のプレーのすべてが脅威として目に映り始める。
「この試合、怖いな」と感じた瞬間から、ウォームアップも、ロッカールームの空気も、体のこわばりも、すべてが「怖さ」の一部として積み重なっていく。

これは、ラベリング理論とも呼ばれる考え方で、自分が貼ったラベルによって、その後の認識や行動が大きく左右されていくというものです。

言葉が体に反応を引き起こすように、感情に貼るラベルもまた、その後の思考や行動のパターンを決めていく力を持っているのです。

脳は否定形を理解できない

ここで、もう一つ大切な話をさせてください。

「レモンを想像しないでください」と言われたとき、頭の中はどうなりましたか。
おそらく、レモンのことばかり浮かんでしまったのではないでしょうか。
「想像しないで」と言われても、脳はまず「レモン」という言葉に反応してしまいます。

脳は、否定形をそのまま処理することが苦手です。
「〜しない」という表現を受け取っても、その中にある言葉、つまり「レモン」の部分に、先に反応してしまうのです。

これは、競技の言葉に置き換えるとよくわかります。

「ミスするな」「焦るな」「怖がるな」という言葉を自分に言い聞かせたとき、脳の中には「ミス」「焦り」「怖い」という言葉が残ります。
否定しようとした言葉が、かえって強く意識に刷り込まれていく。
これが、言葉の持つ逆説的な力です。

一生懸命「考えるな」と思えば思うほど、そのことばかり頭に浮かんでくる。
アスリートなら、そういった経験に心当たりがあるかもしれません。
あれは意志が弱いのでも、集中力が足りないのでもなく、脳の仕組みそのものがそうなっているのです。

同じ意味でも使う言葉を変えてみる

では、どうすればいいのか。

答えはシンプルです。
同じ感情を表すとしても、使う言葉を選び直してみる、ということです。

たとえば「怖い」と「楽しめていない」。
この二つを並べたとき、感じている内側の状態は、ほとんど同じかもしれません。
どちらも、今この状況にうまく向き合えていない、という感覚を指しています。
意味として受け取っているものは近いはずです。

しかし、脳への届き方はまったく違います。

「怖い」という言葉は、そのまま「怖さ」として体に届いていく。
一方で「楽しめていない」という言葉を使うと、脳の中には「楽しい」という言葉が残ります。
否定形を処理しきれない脳は、「楽しい」という部分に反応するのです。

そして自然と、「楽しめていないな。じゃあどうやったら楽しめるだろう」という問いに変わっていく。
「怖い」という言葉のままでは、なかなかそこには向かいません。
「怖い」は状態を確定させる言葉ですが、「楽しめていない」は次の行動を引き出す言葉になり得るのです。

言葉一つで、思考の方向性が変わっていく。
それがパフォーマンスの違いに、少しずつ積み重なっていきます。

無意識の言葉があなたを動かしている

ここまで読んで、「そんな単純なことで変わるの?」と感じた方もいるかもしれません。

ただ、大切なのは「単純かどうか」ではなく、「無意識にやってしまっているかどうか」というところです。

誰も、意識して自分のパフォーマンスを下げようとはしていません。
だけど、長年染み付いた言葉の習慣は、気づかないうちに体や思考に影響を与え続けています。
「どうせ無理」「また失敗した」「自分には無理だ」。
そういった言葉を、どれほど無意識のうちに自分に言い聞かせているか。
まずそこに気づくことが、大きな変化の入り口になります。

使う言葉が変わると、感じ方が変わります。
感じ方が変わると、行動が変わります。
行動が変わると、気づいたときには、目指していた場所に少し近づいている。
技術や体力だけではなく、内側からの変化が、パフォーマンスを本当の意味で変えていくのです。

言葉の習慣を見直してみるということ

私がスポーツメンタルコーチングの中で取り組む要素のひとつに、まさにこの「無意識に使っている言葉」への気づきがあります。

自分が普段どんな言葉を使っているか、意識を向けたことがある方は、意外と少ないかもしれません。
だけど、そこを一緒に丁寧に見ていくことで、競技への向き合い方や、日々の物事の受け取り方が、少しずつ変わっていきます。

今、競技で何かうまくいかないと感じていることがあれば、それはもしかしたら、技術や体力の問題だけではないかもしれません。
言葉という切り口から、自分の内側を見直してみることも、一つの選択肢として持っておいてもらえたら嬉しいです。

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スポーツメンタルコーチ加藤優輝
Deportare Design代表
Deportare Design代表。埼玉県川口市出身。6歳から22歳までプロサッカー選手を目指していたが、燃え尽き症候群により競技を嫌いになり、プロになれずに現役引退。 その後、人命に関わる仕事に魅力を感じ、消防士になる。 消防士として社会貢献していく中で、夢や目標に向かっている人をサポートしたいという思いが沸き起こり消防を退職。 退職後、自分自身が燃え尽き症候群になってしまった原因を解明すべく、脳と心の仕組み・スポーツ科学、EQなどについて学ぶ。 その後、サッカー元日本代表でもあるカレンロバートの専属サポート。現在は、プロ野球選手(NPB)やプロサッカー選手(Jリーグ)、プロゴルファー(JLPGA)、プロサーファー(WSL)、実業団選手(日本代表)を始めとする、トップアスリートから本気でプロを目指すアスリートを中心にサポートをしている。

私がスポーツメンタルコーチになった理由

私はプロサッカー選手になるはずだった。小学校のころから夢はサッカー選手。中学生になっても高校生になっても大学生になっても、夢は変わらずサッカー選手。そんな私は、身長170㎝でゴールキーパーをしていた…>>続きはこちらから

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